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運命のしるし
「ああ、そろそろか」
普段は自分がオメガだって忘れて過ごせるほどにはフェロモンは薄いし大して鼻も効かねえ平々凡々なおれだけど、発情期だけは数ヶ月に一度いっちょまえにやってくるから嫌でも自分の性質を思い出す。
幸か不幸かこんな状態になったところで寄ってくるような物好きも居ねえから、まだ自分で歩けるうちにとっとと帰って寝るに限――あっやべ、なんかすげえふわっとして……こんなに強烈なのはいつ以来かも思い出せねえほど久々か……いや、んなことよりも、とりあえず、薬……っ……
「見つけた」
まだふわふわしたような心地で気がつけば、裸のイケメンに見下ろされているのはまだ夢か?
イケメンってやっぱりイイ匂いすんだな、どうせ夢ならもっと嗅いでみてえなって顔を寄せればあちらのほうから近づいてきて、温かくて柔らかい感触が口いっぱいに注がれてもっと欲しくなる。
「ふは……可愛すぎ」
「……?」
「イイ匂い、するでしょ? ぼくもだよ」
「は……」
やべ、声に出てたのか。
「ぼくのしるし、ちゃんと残ってて嬉しいな。ちゃんと虫除けにもなってたみたいだし」
そう言ってそろりと撫でられたおれの首もとには、確かに消えない小さな痣のようなあとがある。
そういや昔、迷子のガキんちょに懐かれて、負ぶってやったら子犬みてえにしゃぶりついてきたんだよなあ。全然消えねえなとは思っていたが、それもそのうちすっかり忘れてた。
「思い出して、くれた?」
「は……あ?」
まさかこいつが、あのときの? いやいやさすが夢だな、仕掛けが壮大すぎて面白え。
「すっごく美味しそうないい匂いに夢中になって追いかけてたら迷子になって、そしたら優しく助けてくれた人がいて。それだけでも嬉しかったのに、その人こそが求めたいい匂いの正体だってわかったら……そんなのもう運命だよね」
「は……っあ」
あのときみたいにその噛みあとをなぞるように、なのにあのときとは違ういやらしさでねっとりと甘噛みされればビクリと身体が跳ねる。
「あのときは運命なんて言葉も番だなんてのも知らなかったし、歯だってまだ生え替わる前だったからどのみち無理だったけど。だけどぼくの本能はちゃんとわかってた」
「つが……い……」
「そう。待たせてごめんね、これからはぼくがいる」
「ん……」
あとから思えばこんなのめちゃくちゃでマジで意味がわかんねえ。
だけどこいつの匂いに包まれているのが気持ちよすぎて、本能のままにすべてを委ねて頷いた。
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