ぼくは、後悔する。ごんぎつねを思い出す。

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「おいしかったね。じゃあ、そろそろ行こうか?」  ガールフレンドのまみちゃんにそう言いながら、ぼくは財布を取り出した。 「いつもごちそうになってばかりだから、ここは私が払うね。」  まみちゃんはニコニコしながら可愛い財布を取り出す。  ★  ぼくは知っている。まみちゃんの正体は、タヌキ。  しっぽに、ちょっと縞があるけど、アライグマじゃないよ。  たぶん、3か月前、家族でキャンプに行ったとき、食べ物を探してテントから出られなくなっていたのを逃がしてあげた、あの子だ。  キャンプから一か月後。  ぼくの通う高校にかわいい女子が転校してきた。「はやしだ まみ」と自己紹介し、ぼくの隣の席に座った。 「よろしくね。」  ぼくにあいさつし、えへへ、と笑った。  授業中、居眠りしているまみちゃんが、うっかり尻尾を出しているのを何度か見た。  でも、まみちゃんといると楽しい。まみちゃんがニコニコしていると、ぼくの心は、ぽかぽかする。  放課後や休みの日は、よく一緒に遊んだ。 一緒に遊んで知ったこと。  ・まみちゃんは、焼き鳥、特にうす塩味の鳥皮が好き。  ・くだものや、かぼちゃが好き。  ・カエルや虫が苦手。   ぼくがふざけてアマガエルをまみちゃんの頭に載せたら、気絶した。   カエル、好きかなって思ったんだけど・・・ごめん。  ぼくは、まだまだガキンちょだったから、よくこんな風にまみちゃんを困らせていた。でも、まみちゃんは怒りもせず、少し悲しそうに、えへへと笑う。 ★ 「え、いいよ、ぼくが払うよ。」 「えー、今日くらい払うよ。」 「だめだめ。ぼくが払う。」    だって困るじゃないか。払ったお金が「木の葉」に戻ったら。  ぼくたち、無銭飲食で捕まっちゃうよ。 ちょっとムキになって伝票を取り上げると、まみちゃんが少し悲しそうな顔をした。 ★  それからしばらくして、まみちゃんはまた転校していった。お父さんの仕事柄、転校が多いそうだ。  あとから、まみちゃんと親しかった同級生の子に聞いたけど、まみちゃんは、もふもふした動物のいる「コンカフェ」でアルバイトして、そのバイト代でボクにごちそうするのを楽しみにしていたそうだ。  それを聞いて、おなかの中が、ずんと痛くなった。  なんであの時、信じてあげられなかったんだろう・・・  いつもいつも、まみちゃんを困らせてばっかりだった。  すごく後悔したけど、謝りたかったけど。もう、まみちゃんはいない。 ★  何年かたって。  大学の仲間と、あのキャンプ地に行った時のこと。  朝、みんなより早く目が覚めてテントから抜け出すと、木々の間からじっとこちらを見つめているタヌキがいた。  声をかける間もなく、さっと林の中に消えてしまった。懸命に走ったけど、追いつけなかった。  ぼくは、聞きたかったんだ。    コンカフェでは、スタッフでバイトしたの? タヌキでバイトしたの? って。 了 512c0700-4772-4d58-b5df-815ffc147dc9
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