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─10─
目が覚める。
どのくらい眠っていたのだろうか。まだ部屋の中が暗いところをみると、そんなに寝ていないようだ。念の為、トイレに行っておこうと、布団から出ようとした時だった。
『あれ? 体が動かない……』
腕を必死に動かそうとするも、ビクともしない。声も出ない。
そうか、これは金縛りか。あんなことがあったんだ、金縛りにもなるか。
放っておけばそのうち収まるだろうと、目を開け辺りを見渡す。今の私には怖いものなど存在しない。
しかし──。
寝室のドアがゆっくりと開きだす。
『どういうこと……』
気味の悪さを感じるも、ドアを注視する。
『これは、夢。科学的にも証明されている』
自分に言い聞かせる。
ドアが開くのと同時に、少しずつ何かが見えてくる。
『これは夢……これは夢……』
目を瞑りたくても、もう瞑ることは許されず、視線を逸らすこともできない。
そして、完全にドアが開く──。
そこには、女性が立っていた。
エプロン姿で、髪の毛を緩く一つに結んでいる。
極端に細い体、こけた頬。瞼が厚く細い目、小さな鼻、口。結んでいる髪の毛は、こめかみから崩れており、いかにも幸が薄そうで憐憫な雰囲気をしていた。
何をしてくるわけでもなく、ただこちらを見つめている。
しかし、目を凝らすと、その小さな口元が動いているように見える。
『何か話している……』
こちらを見つめながら、何か言っている。解読しようとするも、小さい口が小さく動いているだけで、到底、読み取ることは不可能。
何かを話し終えると、すうっと、消えて行った。
長く感じたが、時間にすると二、三分の出来事だろう。
消えたと同時に、私の体は解放され、動くようになった。汗ばむ体を起こし、もう一度ドアを確認する。当然だが、誰もいない。
あまりにも哀れな私に、幽霊が慰めに来てくれたのかもしれないと、たいした気に留めなかった。それに、薄気味悪さは感じたが、敵意は感じられなかった。
時計を見ると、午前一時を過ぎた頃だった。完全に目が冷め眠れなくなる前に布団に戻り、また眠りについた。
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