憐憫

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─3─  アラームが鳴り、目を覚ます。部屋の中がひんやりとしていて、布団から出ている顔が冷たくなっていた。昨晩の雪の影響で、一気に気温が下がったのだろう。耐えきれず、一度布団の中に潜る。しかし、二度寝の危険を察知し、勢い任せに体を起こしリビングへ向かう。  午前五時半。ストーブの電源を入れ、カーテンを開ける。  太陽ががうっすらと昇り始めているのか、東の空が、オレンジ色のグラデーションに染まりつつあった。  ストーブの前に座り、背中を温める。  まだ起きていない頭の中で、これから作るお弁当のおかずを考える。今日は寒そうなので、スープジャーに豚汁を入れていこうと決める。 「よいしょ」と、立ち上がる。  冷蔵庫を開け、中を物色する。今日の帰り、買い物をする予定なので、余り物を組み合わせ、十五分程で簡単に豚汁を作り終えた。朝ごはんはヨーグルトにバナナを入れ、オリゴ糖をかける。そして、欠かせないのがコーヒー。  今日、同僚に話したらどんな反応をするのかが楽しみだった。彼氏がいることを知っているのは仲のいい一人だけ。私にいつもマウントをとっていた女は、さぞ驚くことだろう。私に彼氏がいないと思い込み、彼の自慢話をいつも聞かされ続けてきた。同じ年の彼女とは、仕事でも馬が合わず、交わることのない人種。早く悔しがる顔が見たい。  なんとなくいつもより丁寧にメイクをし、いつもより少しだけいい服を着て出勤する。  玄関を出ると、アパートの階段に薄っすらと雪が積もっていた。これくらいの雪も溶けないところをみると、やはり気温はぐっと下がっているらしい。  滑らないように、冬用の歩き方に変え、足裏を滑らすように歩く。これは、全道民に通じる歩き方で、物心がついた頃には身に着けていた。 「おはようございます」  事務所でタイムカードを押し、更衣室へ向かう。  制服に着替え準備をしていると、ぞくぞくと他の従業員が出勤してきた。 「いよいよ寒くなってきたわね」  更衣室は冬の到来で話が持ちきりだった。  そして、マウント女が出勤してきた。よし、今だ。 「私事なんですが、結婚することになりました」 「えええええ! おめでとう!」  驚きながらも、拍手でお祝いの言葉をかけてくれ、素直に嬉しかった。ちらっとマウント女を見ると、笑顔で拍手をしている。  精一杯の強がりか……。  自分は性格が悪いと思いながらも、心の中で何度もガッツポーズをする。今まで散々やられてきたのだ。最高の反撃ができ、これだけでも満足だ。  みんなにお祝いの言葉をかけられると、ますます実感が湧いてくる。    私には幸せな未来が待っているのだ……。
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