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─6─
あれからしばらく、体も頭も動かすことができず、ソファに沈んだままだった。
部屋の中が暗くなりはじめ、ようやく体を動かす。時計を見ると、十六時を過ぎた頃だった。
通夜……。
その言葉が頭を過った時、胸に鈍痛が走る。
慎太は、もう、この世にいない……。
──いや、やはり信じることはできない。到底、受け止めることなどできないし、この目で見て確かめるまでは信じない。
きっと、同姓同名に違いない。
今のところ『木内慎太』という名前しか情報がないのに、なぜ私の婚約者の慎太だと言えるんだ。証拠がないじゃないか。顔写真が載っているわけでもあるまいし。
とにかくお通夜に行き、確かめなければ。
通夜に行けば、飾られている遺影を見て「誰だ?」と、なるに決まっている。そして、このことを慎太に話し、笑い話になって、何事もなかったかのように私たちは結婚するのだ。
「あっ……。そもそも、慎太に電話してみればいいのか」
通夜の準備をしようとしたとき、本人に確認するという、一番簡単な方法を思いつく。
優紀との電話を切ってから、スマートフォンをずっと握りしめていたせいか、指が固まっていた。ゆっくりと手を開いていく。
画面には『木内慎太』と表示され、呼び出している。しかし、一向に出てくれない。不安は募り、緊張からか、口の中が乾く。
結局、出てくれることはなかったが、きっと仕事が忙しいのだろう。
そうだ、きっとそうに決まってる。電話に出られないなんていつものこと。特別なことじゃない。
大丈夫、大丈夫に決まってる。慎太が死ぬはずがない。
不安が押し寄せては、人違いだと不安を押しのけ、少し気を緩めるとまた、不安が押し寄せてくる。そしてまた、押しのける……。通夜の準備をしながら永遠に繰り返し、どうにかなりそうだった。
久しぶりに喪服に袖を通すと、より一層不安が重くのしかかる。死神が覆いかぶさっているみたいだ。
胸のあたりが重く、胸やけ気味のままコートを羽織り、通夜へ向かう──。
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