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2時間目
目の前に突然、光の玉が現れたのと同時に、金縛りが解けた。白い燕尾服に身を包んだ若い男が、微笑みを浮かべて立っている。
「佐久間拓郎さんですね」
突然、自分の名前を呼ばれて、それが自分の名前だと気付くのに数秒を要した。
「あ、はい。あの、あなたは」
微笑みをキープしたまま、その男性は執事よろしく深々と頭を下げた。
「私はあなたの教師です。ようこそ『化け学教室』へ」
「ようこそじゃないんですよ。ここはどこのお化け屋敷ですか? 一刻も早く会社に行かないと」
はぁっと溜息をついて、その男は両手を腰にあてた。
「やっぱり分かってないんですねぇ。佐久間さん、あなた死んでます」
「だから、死んででも行かなきゃいけないんですってば」
するとその男は拓郎の方を掴むと、顔をずいっと寄せてきた。目の前で端正な顔立ちがズルズルと崩れて、ガイコツに変容した。ひぃっと声を上げて、拓郎は少しちびった。
男が手を離すと、再び端正な顔立ちに戻り、あの微笑みが戻った。
「あなた、出勤途中に心臓発作で倒れて病院に運ばれたんですが、間に合わなかったんですよ」
そう言われて自分の手足を見ると、うっすらと透けていた。
「ご理解いただけましたか? あなたは死んだのです」
透けた手を見つめながら記憶を辿ってみる。いつものように玄関で見送る妻に手を振って最寄り駅に向かっていて、最初の交差点で信号待ちをして…どうしたっけ?
その先を思い出そうとしても何も頭に浮かんでこない。そんなバカな。思い出せ、思い出せ…。
「無理ですよ。だって死んじゃったんだから。いい加減認めてくださいよ。こっちも暇じゃないんで」
燕尾服の埃を祓いながら男は言った。
「授業、始めていいですかね?」
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