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 「ご気分はいかがですか、佐久間様」  泣き腫らした目に、ヘッドマウントディスプレイの圧がきつい。この違和感は改善の余地があるだろうなと、佐久間拓郎は思った。  まだ少し頭がぼうっとしていたため、しばらくこのまま横にならせてもらうとしよう。  「いや、実に貴重な体験をさせていただきました。面白いと思います、これ。若者にもウケるんじゃないですかね」  そう声をかけると、広報担当者はパッと顔を明るくした。  「ありがとうございます! 数々の大ヒットゲームを手掛けてこられた佐久間様に、そう仰って頂けたら、社員のモチベーションも上がります!」  ふぅと一息ついて、佐久間は言葉を継いだ。  「ハードの方のお話で恐縮ですが、ディスプレイの違和感はもう少し何とかしたいですね。プレイヤーの没入感こそが、このゲームのキーだと思うので。あと、此岸の誰かに会うと決めた後の、ストーリー展開に、もう一工夫あると良いかもしれません」  「ありがとうございます。今後の開発に必ず活かしてみせます! 本日は誠にありがとうございました!」  「期待していますよ」  そう言いながら、佐久間は久し振りに実家に寄ってみようと思った。少なくとも、生きているうちにきちんと会って、感謝の気持ちを伝えよう。親子水入らずで旅行するのもいいだろう。それが出来るのも生きているからだ。死んでからでは、せいぜい化けて出て謝るくらいしか出来ないのだろうから。  ベッドの上で上半身を起こし靴を履こうとした時、おや、と思った。  膝から下が、ない。
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