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「要するに、俺は母様の精霊の力を消したわけじゃなくて吸っちゃったってこと?」
「そうだ。お前は元々これまでのどの子よりも強く私の力を受け継いでいた。その上で追加接種したんだから倒れて当然だな。自業自得だ」
ご丁寧にもう一つ椅子を出してくれたので二人で向かい合って座る。
ここまで聞いた話では、母様は病ではなく精霊の力のせいで弱っていたようだ。そしてユリシスの時に比べ事態が深刻化したのは俺も母様と同様に『神の子』だから。
「そんな冷たい言い方しなくても………。今だって、ご先祖様が俺の身体を守ってくれてるくせに」
神の子が神の子を生んだ時親は必ず命を落とす。それこそがここにいるご先祖様の加護だったのだ。
「どれだけ生意気でも、子は子だからな」
彼は自らの肉体を捨て自分の子の中に宿り、その身を守り続けている。けれど神の子が二人いてしまってはどちらかを見捨てる他はない。いくらご先祖様でも、二つに分裂するのは難しいらしい。
ていうか身体がなくなっても存在できるって不思議だよな。しかも今俺の中にいて、精霊の力が暴走しないよう抑えてくれているなんて。
俺のご先祖様優秀過ぎる。これで更にスライムみたいに分裂出来たら完璧なのになあ。
「おい、スライムとは何だ」
「ゼリーみたいなブヨブヨしたやつ。粘液を出したりもするし、切られたら分裂するんだ。俺も見たことないけど」
「な………っ」
ご先祖様がとても分かりやすく絶句している。この世界にはスライムが居ないのか。確かに想像だけだと気持ち悪いかもしれない。実際はなかなか可愛く描かれることが多いけど。
「け、軽率におかしなことを願うのはやめろ!私はブヨブヨにはなりたくない!」
「でもそしたら分裂できるようになるじゃん」
「そんな簡単なものか。精霊に干渉出来るのは神だけだ」
「じゃあ心配ないじゃん」
「万が一があるだろう」
「どっちだよ」
ご先祖様って心配性なんだな。意外な一面が見えてしまった。
「はあ………。君はこれまで見てきた子達の中で一番手がかかる」
「手がかかる子程可愛いから」
「もう喋るな」
「へ、」
突然座っていた椅子が消えた。そのまま床に身体を打ち付けるところをご先祖様に支えられる。
「よく聞きなさい。今回のことで君の身体は既に限界を突破する直前までいっている」
「突破しなくてよかったねって話では………」
「ないな」
「ですよねー…」
「いいか?生きたいのなら、絶対に強く何かを願ったりするな。私も最善を尽くすが、私に出来るのは君の身体の耐久力をあげることと、君の思考が力の源まで届かないよう阻むことくらいだ」
取り敢えず頷いたが、正直半分も理解できていない。そもそも前世では考えられない単語ばかり出てくるし、まだファンタジー世界に入居して間もない新人には難しすぎる。
基礎すら理解していない新入社員に業界用語ばかり使って説明したって分かりっこないけど、業界用語を一般的な言葉に変えるのが難しい場合もあるってことだな(?)
「君は………頼むから真面目に考えてくれ」
「え………?これまでの人生でこんなにも頭を使ったことないんだけど」
ご先祖様に憐れむような目を向けられた。ものすごく不本意だ。実際あまり頭の良いタイプではないので何も言い返せないのが悲しいところ。
「一応説明しておくが、こうして話している間に君の身体の修復はしておいた。それでも、無事目覚められる保証はない」
「身体が治っても駄目なのか?」
「精霊の力は願いの作用だ。
願いとは意識の中にある。私の作ったこの領域から君の意識が出た途端、身体が耐えられずにそのまま………」
頭の悪い俺でも、ご先祖様が口にするのを憚った言葉が何なのかくらいは分かる。その上で本当に少しも心配することなく言い切った。
「大丈夫!また皆に会いたいって、ありったけの思いを込めて願うから」
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