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どうやら全く話を理解していなかったらしい新たな子孫の額を小突く。此方の正体を知ってもなお過度な敬意も畏怖も抱かず平気で言い返して来るその子がまたおかしなことを言わないうちに意識を返してやった。
「やっと静かになったな」
子どもの相手をするのはどうにも疲れる。
その場に腰を下ろすと、何も言わずとも椅子が現れ受け止めた。
「………」
真っ白なこの空間には望まない限り物も音も何も無い。既に慣れていた筈なのに何故かいつもより殺風景な気がして、テーブルに花、適当な料理まで出してみたが結局椅子以外は全て消した。
―――身体は無事なようだが、目覚めるにはもう少しかかりそうだな。
あの子が目覚め、思考すれば自然とここまで伝わってくる。会話はできずともおかしなことばかり考えているあの子の思考を盗み聞きするのはなかなか愉快だ。
それが直接の会話になれば当然面白くないわけもなく、突然静まり返ってしまったこの空間では物足りなく感じてしまう。
そもそも肉体を捨ててからただの一度も子孫と会話などできたことがなかった。自分の存在を感じ取れる者は少なくないが、意思を持ったままこの空間に留まり、あろうことか精神だけの存在となった精霊を視認するなんて前代未聞だ。何千年と生きてきた私が言うのだから間違いない。
あの子の特異な点はそれだけではなく、思考から推察するに彼はこことは異なる世界線から来たようだ。いくら生まれ変わるタイミングで魂だけになっているとはいえ、世界線を超えるなんて不可能に近い。
………もしかしてあの規格外の能天気さは異世界人の特徴なのか?そうだとしたら異世界はどうやって周っているんだ。いやでも、寧ろ全員がああならいつまでも平和でいられそうだ。
頭の中でアーリアだけが暮らす世界を想像してみる。取り敢えず発展することは絶対にないという結論に至った。
ただ、世界に一人くらいはあの子のような者がいてもいいだろう。
少なくとも私はあの子の馬鹿で軽薄な部分に救われてしまった。まさか全てを知っても怒りも憎しみも、些細な不信感ですら抱かないなんて。それどころか伝わってくるのが純粋な好意ばかりだった。
もしあの最初の戦乱の時代にアーリアのような人間がいたとしたら。精霊と人がともに暮らす世界があったかもしれないと、既に叶いような未来に思いを馳せた。
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