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あの日トラックに轢かれて覚えている範囲での第一の生を終えた俺は、何故かその記憶を持ったまま今度は公爵家の次男に生まれ変わった。
前回とは国どころか世界線も違うらしく人々の容姿も名前も慣れないものばかり。とはいえ赤子の生活をする上で特に困ることはないので、今のところ目立った悩みもなくのんびりとしたベビーライフを送っている。
「坊ちゃま、おはようございます」
「あーう」
目を開けると一番に飛び込んできたのは執事のルネの柔らかなほほ笑みだった。
最近漸くしっかりと人の顔が見えるようになってきて、彼が想像よりずっと若いということに気がついた。
というのも今のところ俺の世話の殆どを彼が一人でやってのけていて、その手際の良さから勝手に屋敷に来て相当長いベテランさんだと思い込んでいたのだ。
いや、あの過保護な夫婦が自分の赤ん坊の世話を任せるくらいだし信頼されているのは確か。きっと幼い頃からこの屋敷で働いていたのだろう。
「今日もとっても良い子ですね。もっとグズってもいいんですよ」
そんなそんな。とんでもない。
オシメを変えてもらえるだけでも有り難いのに。
それにしてもこんな見るからに有能そうな眼鏡執事に子育てさせるなんて明らかに人選ミスじゃないか?
もっと似合う仕事がたくさんありそう。
ルネが眼鏡のフレームに触れながらキラリとレンズを光らせている様子を頭に浮かべてみる。うん。やっぱりめちゃくちゃ似合うな。
ちゅぱちゅぱと指をしゃぶり考えごとをしているとあっという間に着替え終わっていた。ルネは休むこと無くそのまま俺を抱き上げる。
「それでは今日も皆様に挨拶しに行きましょうか」
「あーう!」
「お返事もお上手ですね。流石はアーリア樣です」
3週間程前から始まったこの挨拶周り。又の名を屋敷内の散歩
「アーリア樣、おはようございます」
「あ!今目が合ったわ!」
「違うわ!私を見たのよ!」
「こら貴方達、アーリア樣の前でみっともないわよ」
「あーうあ(喧嘩すんな)」
「「きゃー!可愛いー!」」
「可愛らしい………」
すれ違う人全員がご丁寧に立ち止まって騒ぎ立ててくれるのだが、普通に騒がしいのでノーマルな赤ちゃんだったら泣き喚いている。前世の記憶持ちで助かった。もしかしてこのために記憶を残してくれたのか。
「まずはいつも通り、奥樣と公爵様のところへ行きましょうね。その後は………うーん、図書館とかどうですか?」
「んー………」
「気に入りませんか?でしたら、少し外へ出てみましょうか」
「あーー!!」
外!この世界に生まれてから始めての外!暖かい陽に当たりながら眠るのが本当に最高なんだよな。
「丁度ユリシス様が剣のお稽古をされている時間ですね」
「あう!」
「そうですよ。お兄様です。坊ちゃまはユリシス様が本当にお好きですねえ」
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