地球外生命体的家族風景

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 流れる涙は留まることを知らない。色々な感情が渦を巻いて彼の脳内を駆け巡る。  妻と初めて会ったときのことや、結婚を意識したときのこと。息子が生まれて涙した日のことも、家族三人で行った花火大会のことも。今年の誕生日にはマフラーとハンカチをもらい、それを大切に使っていたことも。  全部全部、愛に繋がっている。これが愛というものなのだ。  彼女が自分のそばから離れていく。それを知ったとき、感じたことのない絶望感が彼を襲った。手放してはいけない。なにがあっても、取り戻さなきゃいけない。  彼は理解したのだ。愛がなんなのか。  車のキーを持ってラゲルは部屋を出た。そのまま玄関へと向かう。後ろからついてきた隊長が声をかけてくる。 『なにをしている?』 「やっとわかったんです。私には、家族が必要なのだということが。それが、愛だということが」 『なにを言ってるんだ? 愛だとか家族だとか、そんなものはどうだっていい。これで自由になったのだろう? 一刻も早く繁殖活動を』 「隊長、すみません。私には、できないようです」  玄関の扉を開けた。冷たい冬の空気が入ってくる。一緒に外へと出たモモは、ラゲルのことを見上げていた。 『裏切るのか? 仲間のことを』 「すみません。私には、なによりも代え難いものなのです。すみません」  そう言って車に乗り込み、エンジンをかける。すべてを決意した彼は、もう地球人となっていた。地球外生命体ではなく、一人の人間へと変化していた。  ガレージから車を出したとき、バックミラーには外にいる白い猫が映っていた。  
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