地球外生命体的家族風景

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 アルデバン星は地球からは十一光年離れている。途方もない距離だ。  かつてその星で不自由なく暮らしていたアルデバン星人だったが、あるとき星の存亡に関わるほどの大規模な天災が起きてしまい、星は滅亡した。  その中でも生き残った数名のアルデバン星人は、宇宙船に乗って地球へとやって来た。  彼らの体格は地球で言えばノミよりも小さい。風に乗って飛んでいき、生物の体内に侵入する。そしてその母体となる生命体の脳を支配し、その者に成り代わって活動するのだ。  ラゲルは日本のとある街に住む松原潤という男性を母体とした。松原潤は三人家族で、妻の直子と息子の海斗とともに一軒家で仲睦まじく暮らしている。その家で飼っているモモという白いメス猫、それに寄生してしまったのが同じ部隊の隊長だったバジグである。  アルデバン星人は基本的には平和主義である。戦いを好まず、社会に順応しながら仲間を繁殖させていく。  繁殖方法はひとつ。粘液による運搬である。性別など関係はない。相手の体内に自身の遺伝子となる卵を運び込み、そのまま成長していくのを待つだけ。  体内で成体まで成長したアルデバン星人は、その母体の意識を支配してその人間に成り代わる。そうして仲間を増やしていくのだった。  松原家では、すでに妻と子どもに自分の粘液を与えている。遺伝子は空気中の酸素に弱く、触れてしまうと生命力が低下するため、直接口と口を絡めて遺伝子を運ぶことが有効だった。いわゆる接吻である。  妻とは日常的に。息子には眠っている最中にそれを行った。  二人以外には、職場の人間が可能だろうか。ただ、会社の同僚や上司など色々と試みようとしたのだが、どうもうまくはいかなかった。人間は普段から見知らぬ者同士で接吻をするという文化はないらしい。  職場では妙な噂が立っている。後輩からは、「松原さんって、酔っ払うとキス魔になるって本当ですか?」と言われた。 「キス魔?」 「誰にでもキスしようとするって。僕が言うことじゃないかもしれないですけど、やめた方がいいですよ。セクハラですし」 「そ、そうか。すまない。気をつけるよ」 「最近なんか変ですよ。前まではそんなことなかったのに」
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