地球外生命体的家族風景

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 松原潤が妻の直子と結婚をしたのは今から四年ほど前のこと。出会いは友人の紹介だったらしい。そこで愛を育み、二人は結婚。すぐに子どもができて、海斗が生まれた。  すべて脳内に残っている。ラゲルの記憶ではなく、松原潤としての記憶が。  直子は学生時代から何人かの男性と交際をしていたそうだ。だが、その恋人たちのほとんどに浮気をされたらしい。  潤と交際を重ねていったが、初めは半信半疑だったのだという。またこの人もどうせ浮気をして自分を裏切るのではないか。そんな不安があったのだが、潤の純粋な想いによってそれは見事に払拭され、結婚に至ったのだった。     直子は潤のことを愛している。それに応えるように、潤も彼女のことを愛していた。頭の中の記憶ではそういうことになっている。  しかし、ラゲルにはその愛という感情がまだ正確には理解できていなかった。  愛という目には見えないもの。それが一体なんなのか、わからないままラゲルは日常を過ごしていた。  そんなある日の夜。彼は仕事を終えて自宅へと帰ってきた。この日も他人との接吻、つまり繁殖活動は身を結ぶことはなかった。内心では焦りを感じていて、どうやって他人とキスをすることができるのか、そればかり考えていた。 「ただいま」  そう言って玄関の扉を開けてリビングへ入ったとき、部屋の中の明かりが消えていることに気がつく。直子と海斗は家にいるはずだ。咄嗟に、敵か? と考えたのだがそれは杞憂に終わった。 「パパ、おたんじょうびおめでとう!」  キッチンの薄い明かりの元、拍手と共に妻と息子が現れて嬉しそうに彼を出迎えた。 「お誕生日? 誰の?」 「誰って、パパのに決まってるでしょ? もうなに言ってんのよ。さあ、座って」  言われるがまま椅子に座る。すぐにケーキが運ばれてくる。ろうそくには火が灯り、ゆらゆらと揺れているのがわかった。 「ハーピバースデーディアパパー、ハーピバースデートューユー! おめでとー」  ろうそくの火を消すと、もう一度拍手をされて彼は祝われた。電気がつき、ケーキを切り分ける直子。すぐ近くにはモモがいて、その光景を見続けていた。なにか言いたげな顔だったが、当然なにも言えない状況である。  ケーキを皿に乗せて目の前に運ばれ、それを口にする。甘いクリームが口の中で溶けていった。
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