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「美味しい?」
「ああ。めちゃくちゃ美味しいよ。ありがとう」
「どういたしまして。あとはい、プレゼント! 色は海斗が選んだのよ」
「そうだよ! ぼくがえらんだんだよ!」
渡されたブランド物の袋を開けてみる。中に入っていたのは、紺色のマフラーとハンカチ。
「これから寒くなるし、いいかなぁって。どう?」
そう言われてラゲルは感じたことのない感情というものを体感していた。鳥肌が自然と立ち、頭の先が熱くなるような。それが涙腺へと繋がっていき、目元からは涙となって出ていく。これはなんなんだ。
「え、ちょっと、泣かなくても」
彼は溢れ出る涙というものを初めて実感していた。悲しくもないのに、涙というものが止まらない。人が泣くときは悲しさや怖さを感じるときだったはず。
自分は今、嬉しいのだ。家族から誕生日を祝ってもらい、プレゼントまで渡されて。涙するぐらい嬉しいのだ。
「……ありがとう。大切にするよ」
やっと喉元から出た言葉は、そんな程度のもので。それでも妻は彼を強く抱きしめた。
「もう、やだ。私も泣けてくるよ」
なぜか彼女の目元も潤んでいた。
「なんでないてるの?」
足元にくっついてくる息子は不思議そうに二人を見上げている。
「それはね、愛を感じているからよ。私はパパの嬉し涙にもらい泣きしちゃっただけだけどね」
「へー」というそっけない息子の言葉に思わず笑いが込み上げる。そのとき、愛がなんなのか、少しだけわかった気がした。
目には見えないもの。でも、こうして家族から包み込まれるような優しさを与えられると、愛というものが見えてくるような気がする。
視線の先には隊長がいた。
睨みつけるようにラゲルを見ていた。
『お前まさか、自分がやるべきことを忘れてはいないか?』
そう言っているように思えて、一瞬で涙が止まった。
そうだ。自分は人間ではない。地球外生命体なのだ。それを忘れてはいけない。ラゲルは小さく頷いた。
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