地球外生命体的家族風景

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 繁殖活動はあまり身を結んではいない。松原潤に寄生してすでに三ヶ月が経過していた。  季節は秋から冬へ。首元が寒くなってきたため、外回りの際はプレゼントされたあのマフラーを巻いていた。  近くの公園のベンチへ座り、少し休憩をする。人間としての仕事は順調そのもので、松原潤の評価は日に日に上がっていた。新規の契約もどんどんと繋げており、課長からも期待されているのがわかる。  しかし、アルデバン星人としての評価はなにも上がっていない。繁殖活動を行ったのは未だに家族間だけであり、他人との接吻はできていないのが現状だった。    自然とため息が出る。 「よお」  ベンチで俯いていた彼の隣りに、誰かが座ってきた。顔を上げて見ると、そこには一人の男性がいた。髪の毛は緑色のモヒカン。耳や鼻にピアスがいくつもあり、革のライダースジャケットを着用している。それが誰か、すぐには理解ができない。 「おいおい、忘れたのか? 俺だよ、バムス。今はトオノコウキとかいうパンク野郎の体だけどな」 「ああ、バムスか。久しぶりだな。同じ街にいたとはな」 「俺もびっくりしてさ。急に波長が強くなったから、まさかと思ってな」    アルデバン星人は、体から特定の電波を放出している。同じ仲間にしか感じ得ない特殊な電波。一定の距離内に入ったときそれを強く感じることができ、仲間を見つけるのに役立つ。 「お前はなんで気づかなかったんだよ? まさか、人間に慣れ過ぎているんじゃないのか?」  言われて、ラゲルは焦りを感じた。この公園に来るまで、彼は人間としての仕事のことばかりを考えていた。仲間が発していた電波に気がつかないほどに。 「すまない。私はどうかしているようだ」 「まったくだよ。状況はどうだ? 活動はうまくいっているのか?」 「いや、ほとんどできていない」 「なにをやってるんだよ。お前はなんのために人に寄生しているかわかっているのか? まさか、人間として生きていこうなんて考えてはいないだろうな?」 「いや、それはない。大丈夫だ。私は地球人ではないのだから」  そう言ったあと、心の中が締めつけられたのは言葉にできない事実だった。
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