地球外生命体的家族風景

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「バムスの方はどうなんだ?」 「俺か? 順調も順調さ。もう何人だろう、百や二百じゃ足りないぐらいさ。誰に卵を産みつけたかもはっきりと覚えているぞ。よし、お前に教えてやる。口を近づけろ」  バムスは強引にラゲルの首根っこを掴み、自分の顔まで運んだ。そしてそのまま口づけを交わした。時間にして十秒、二十秒、いや、一分ほどだろうか。  アルデバン星人は情報を共有する際に粘液の交換を行う。そうすることで自身の記憶や経験が相手に正確に伝わるのだ。  彼の情報は松原潤の口を通してラゲルの脳内へと伝わってくる。頭の中に描かれる無数の人間たちの顔。そのいずれもが女性であった。 「男とキスをしたのは初めてだよ。ははは」  ラゲルは口を拭う。時間帯は昼下がりということもあり、公園には多くの人がいた。ベンチでスーツ姿の男性とモヒカン頭の男が昼間から濃厚なキスを交わしている光景は異様に見えたのか、ほとんどの人間が二人のことを見ていた。中には隠れてスマホで撮影をする者まで。 「またなんかあったら教えろよ。ケータイの連絡先ももう頭に入ってるだろ? じゃあな」  バムスは片手を上げてその場から離れていく。取り残されたような気がして、ラゲルも急いで公園を後にした。  その日彼は、一日仕事に身が入らなかった。仲間はすでに使命を果たしている。これからも繁殖活動を続けていくことだろう。  自分はまだなにもしていない。一体なんのためにこの星へやって来たのか。その理由すらわからなくなっている。  人間に寄生したことにより、人間に近づこうとしているというのか? 本来の目的は種族を増やし、この世界を支配することのはず。それなのに……。  誰彼構わず片っ端から口づけをしていけばいい。嫌がられようと、拒否されようと。人間としての立場がどうなろうが、最後に仲間が増えるのであれば問題はないはずだ。しかし、彼にはそれができなかった。  一体なぜなのか。  いつも頭をよぎるのは、直子と海斗の顔だった。彼女たちが悲しむ顔を見たくはない。自分でも驚いたのだが、それが本心だった。  彼は愛していたのかもしれない。家族のことを。
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