地球外生命体的家族風景

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「……これは私の友だちから送られてきた動画。たまたま見つけたみたい」  こんな偶然があるのか。あの時間のあの場所にいた見知らぬ他人の中に、直子の知り合いがいたなんてことが。 「私ね、学生時代から付き合う男性に浮気され続けてきたの。単に男運がないからなのかなって諦めてたところもあったけど」 「……」  声を返せない。彼は黙って話を聞くことしかできない。 「でもね、潤と出会って、本当に心の底から愛されているのを知った。あなただけは純粋に私のことを大切にしてくれている、そう思っていた」 「直子、これは、その、違うんだ。同じ仲間というか、種族というか」 「同じ種族? ってことは、やっぱりそういうことだったんだ。いいよ、あなたがどんな人を好きになったとしても。たとえ、男の人が好きだったのならば、それはそれで仕方がない。でも、そうだとしたら、結局私のことも、家族のことも、全部裏切った、そういうことでしょ?」  キッと睨みつける彼女の目は鋭く、視線を合わせ続けることができなかった。怒りと悲しみ、その両方が頂点に達しているような感情がびりびりと伝わってくる。  椅子から立ち上がった直子は、リビングから出ていく。それを追いかけることもできず、呆然と立ち尽くしていた。彼女はしばらくして戻ってくる。大きなボストンバックを抱えて。 「な、なにしてんの?」  ソファで眠っている息子を起こし、手を取って彼の前を通過した。 「ちょ、ちょっと待てって、話をさ、聞いてくれよ」 「……少し考えたいの。しばらく、実家に帰るから」  眠そうな顔のまま状況をまったく理解していないであろう海斗が優しく手を振る。リビングの窓からは友人か誰かの車が家の前に停まっているのが見えた。それに乗り込んだであろう直子と海斗は家を離れていく。   『ようやく、これで自由になったようだな。さあラゲル。扉を開けてくれ。繁殖活動の開始だ』  リビングのテーブルの上に立ち上がった隊長が意気揚々と声を張り上げている。 『どうした? なにをしているんだ? さあ、早く』 「……わかりません」 『まさか、泣いているのか? なぜだ?』 「わかりません」  涙が止まらない。その理由は、アルデバン星人にとっては理解のできないものであった。 『なぜ泣いているんだ?』 「わかりません。わかりません……」  ラゲルはそう呟くだけ。
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