地球外生命体的家族風景

1/10
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 仕事から帰った彼は、ネクタイを緩めながら寝室の扉を開けた。スーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーへと掛けた。  そこへ一匹の猫が入ってくる。名前はモモ。松原家で飼っている白いメス猫である。モモがベッドの上にぴょんと飛び乗り、潤のことを見ている。 『どうだ? 順調か?』  モモは低い声でそう尋ねた。 「ええ。今のところは」 『そうか。それならいいが』 「隊長はどうですか? 相変わらず外には出られず?」 『ああ、直子の見張りがきつくてな。何度か脱走を試みたんだが、すぐに捕まってしまったよ』 「妻はモモのことが大好きですからね」 『私は母体選びに失敗したようだ。これほど自由に外出できないとなると、繁殖活動は困難だな。お前たちに懸かっている。頼むぞラゲル』  隊長からその名前を呼ばれて、ラゲルは改めて気を引き締めた。 「ええ、もちろんです。この先我々が生き延びていくために」  そう彼が決意を表していたとき、部屋に子どもが入ってきた。 「パパー」と言って足元に抱きついてくる。頭を撫でてやり、その体躯を持ち上げて抱いてやる。まだ三歳の男の子。 「パパ、誰と話してたの?」 「ん? ああ、モモと」 「え、モモと? モモはしゃべれるの?」 「ああ、もちろん。モモはおしゃべりだからね」 「えー、モモ、ぼくともおしゃべりしてよー」  息子は猫の方へ手を伸ばしている。それを見てモモはふぁーっとあくびをした。相変わらず演技が上手い。  息子をベッドの上に下ろしてやると、モモの頭を乱暴に撫でた。 「モモはかわいいねー」  明らかに不機嫌そうな顔でラゲルを見ている隊長。内心では苛立っているのがわかり、ラゲルは笑いを堪えるのに必死だった。 「パパはモモとなにはなしてたの?」 「うーん、そうだなぁ、世界征服の話かなぁ」 「せかいせーふく? なにそれ?」 「この世界を我々の支配下に置くための重要な会議さ」  あまりよくわかっていない息子は、首を傾げながらベッドを降りて、「ママー」と言いながら走っていった。 『余計なことを言うな』 「本当のことを言ったまでですよ」  はぁ、とため息のような鳴き声を出した隊長は部屋を出ていく。その後ろ姿はどこからどう見ても飼い猫にしか見えなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!