16 膝枕

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16 膝枕

膝枕って夢がある。その夢が今叶って嬉しい気持ちでいっぱいだけど、これっていつになったらやめてもいいものなのかな? ヴェール様の寝顔を堪能したり、髪を梳いたり起こしてしまわないように頭を撫でて楽しんだ。出来ればこのままヴェール様が目を覚ますまでこうしていたい。 だけど、だけど、もう足が痺れて限界!! ずっと腿の上にヴェール様の頭が載っているからか、血流が悪くなって足全体がピリピリチクチクする。 寝不足で疲れ切っているヴェール様を起こすことなんて出来ない。でもこのままじゃ、あと何時間眠ったままか分からない。これはきっと三十分くらいのお昼寝の時にやるべき行為で、何時間寝るか分からない時にやることじゃない。 時間ならいくらでもあるけれど足は二本しかないのでこれ以上は無理。ああこの安心しきった美しい寝顔よ、どうかこのまま目覚めないままでいてください。 ヴェール様を起こさないように足を抜くには、とにかく動きを最小限にして頭に衝撃を与えないこと。 少しずつ腿を浮かせて隙間を作りながら、頭の下に手を入れていく。髪をはさまないように丁寧に丁寧に進んでいって、両手で頭を支えて高さを保ちつつ、片足ずつずらして抜いていく。 そうしてゆっくりと、気付かれないような速度で振動を与えないように、頭をベッドの上に降ろす。ヴェール様の表情は変わることはなく、枕の段差が大分変ったことにも気付かないみたいだった。 セーフ。そしてミッションコンプリート。 静かにほっと胸を撫で下ろして、楽な体勢を取る。激しい痺れに声が出そうになるの耐えながら、右足を伸ばし、次いで左足を伸ばした時に、目測を誤ってヴェール様の腕を蹴ってしまった。 ああ、と声に出さずに嘆いて顔を覆う。折角ここまで慎重にやって来たのに、一瞬の油断で眠った夫を蹴ってしまうなんて。これで目を覚ましたらどうしよう。 大丈夫、深く眠っていたし蹴ったと言ってもちょっと掠めた程度だから、と自分に言い聞かせて顔を覆った指の間からヴェール様の顔を見ると、瞼は閉じられたままだった。 セーフ! セーーーフ! 起きてない! 起きてないですよ! 思わず喜びの声を上げたくなるところをぐっとこらえて、手だけでガッツポーズを取る。あ、この世界の人たちってガッツポーズは取らないのかな? しかもこれって和製英語なのよね。こっちでは何て言うんだろう。 まあそんなことはいいとして、段々痺れも取れて来たしこれからどうしよう。ヴェール様に添い寝、それとも部屋に戻る。起きた時に一人になっていたらヴェール様が悲しむかも。それならやっぱり添い寝かなあ。 本格的に眠るなら掛け布団が欲しくて、ヴェール様の足元で丸まっているそれを取るために一度ベッドから降りようとした瞬間、腕を掴まれて飛び跳ねた。 「!?!?!?」 急にがしりと掴まれて、あまりの怖さに悲鳴を上げそうになるのを堪えて振り返ると、薄目を開けたヴェール様と目が合った。 「リアナ……いかないで……」 眠たそうな掠れた声で、縋るように頼まれて私の方の眠気が全く吹き飛んだ。か、かわいい。美しい上に可愛いなんて、ズル過ぎやしませんか。 「大丈夫ですよ、私は何処へも行きません。まだもう少し寝ましょう」 掴まれていない方の手でヴェール様の頭を優しく撫で続けると、ヴェール様は再び瞼を閉じて寝息を立て始める。腕を掴む手の力も抜けて、少し捻りながら抜くと簡単に拘束は解けた。 私は今度こそベッドを降りて掛け布団を取ると、ヴェール様の体に掛ける。そうしてもう一度ベッドに上がって私も中に入る。 三週間ずっと忙しかったのかな。どんなお仕事をされていたのかな。国王様と公爵様のお仕事って、物凄く薄く広く浅く考えると想像がつくけれど、何か一つを深く考えようとすると全然分からない。 でも帰って来てくれたのだから、これから教えてもらえばいい。時間は沢山あるのだから。 そっと布団の中でヴェール様の手に触れて軽く握って、私も静かに目を閉じた。
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