ティータイムは星の花を添えて

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 乳白色の高窓から柔らかな光が落ちる書き物机、そこにはすでに先客がいた。ユールから見えるのは両腕を枕に半身を伏せる背中だけ。だが首の後ろでゆるく編まれた髪を見ればその正体は一目瞭然だった。燃えるような緋の色を持つ者はこの学園にひとりしかいない。 「レンフォルツ・ウィンザール……」  学園はおろか街一番の有名人である。学生間で人気がある理由は彼が中性的で綺麗な面立ちだからとか、分け隔てなくみんなに優しいとかそんなところだろう。けれど知名度の高さはまた別の理由からだ。 「おい、ウィンザール起きろ」 「んん……」 「鐘が鳴るぞ優等生」  両腕を組んで見つめているとレンフォルツの肩が震えた。ゆっくりと半身を起こし、のんきに伸びをしてからくるりと振り返る。ユールを見つけた藍色の瞳はふわりと綻んだ。 「ユールリッドくん、おはよ」 「おはよ、じゃない。もう昼過ぎてる」 「僕を迎えに来てくれたの?」 「寝ぼけてるのか? 次、選択授業」  ユールは半眼を返す。赤毛の少年はあくび混じりに「起きてるよ」と呟いた。 「ええと……選択ってことは、天文学だ。ユールリッドくんは?」 「自然史で自習。だからそこを、」 「自然史! あれ面白いよね。僕、精霊のことが知りたくてまっさきに受講したけど、選んでよかったなって思ったもん。あ、もしかしてここ使いたい? ごめんね、ちょっと待ってて」  思いついた語を思いついた順にぽんぽん発して、レンフォルツは広げていたテキスト類に手を伸ばした。人を待たせている割には一冊一冊を確認してから閉じ、きちんと揃えてバンドで縛っている。 「ここ、陽当たり良くて最高だね。こんなにお昼寝向けな席があるなんて知らなかった。なんだか得しちゃったな」 「おい一緒にするなよ。オレは、」 「ふふ、わかってるよ自習でしょ。僕がね、もしユールリッドくんが来てなかったら夜まで寝てたかもしれなかったから。……あ、」  レンフォルツは思い出したように鞄の中を漁り、小さな包みを取り出した。 「起こしてもらったお礼に」  半ば押しつけられるように渡されたのはマフィンだった。生地にブルーベリーが混ぜこんであってすごく美味しそう。……いや待て、今取り立てるべきはそこじゃない。 「何のつもりだよ」  ユールは眉間に力をこめた。けれどいくら睨んでもレンフォルツの笑顔は崩れない。 「ふたつ食べたらお腹いっぱいになっちゃって。ユールリッドくんが貰ってくれると僕も助かる。味は保証するよ」 「男から菓子貰っても嬉しくないんだけど」 「あ、作ったのは女の子だよ。だったら問題ない?」 「なおさらダメだろ! プレゼントを横流しって最低だぞ」 「プレゼントじゃないよ。これは、」  そのとき鐘が鳴った。レンフォルツはハッと宙を仰ぎ、「僕行くね」と離れた。 「おい!」  マフィンを掲げて一歩踏み出す。だがユールの声は制止に繋がらなかった。レンフォルツは口角を上げると()()(ざま)に手を振った。
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