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同じ講義を受けていたらしい他の生徒が次々通り過ぎていった。無遠慮にちらちら窺ってくる視線が鬱陶しい。
「あのさ、場所を変えてちょっと話せないかな」
「昨日のことなら、謝るつもりないですよ。あなたは嫌な気持ちになったかもしれないけど、」
「それ。ちゃんと説明してほしいな。オレの何が無責任なのか」
マルガが顔を上げた。双眸には鋭い光が宿っていた。
「本当に無関心なのね。だからドレーゲルなんて嫌い!」
「は?」
「当事者じゃないから関係ないとでも思ってるんでしょう!? それじゃ関係ないのに星竜の目を受け継いだ方はどうなるんですか? 迷惑だわ。役割を放棄したんだったら、代わりにできることを探すべきよ」
「星竜の目? ……迷惑って誰が」
思わず一歩踏み出した。同時に背後からユールの肩が叩かれた。
「ユールリッドくん、おはよ」
のんびりした朗らかな声だった。それだけで相手が誰か、どんな表情をしているかも容易に浮かんだ。
振り返ったユールは自分の予想が間違ってなかったことに溜息をついた。
「ウィンザール。今取り込み中なんだよ。後にして」
「取り込み中?」
「見ればわかるだろ……あれ?」
ユールが視線を戻すともう少女の姿はなかった。あたりをきょろきょろ見回すがそれらしい背格好はどこにもない。まるで溶けて消えてしまったかのように。
「誰かいたの?」
レンフォルツも隣に並んであたりを窺う。
ひとしきり探したあとで顔を見合わせた。レンフォルツが不思議そうに首を傾げた。その藍の双眸に映りこむユールの姿。
ユールは眉間にしわを刻み、レンフォルツを――正確にはその両目を指差した。
「……関係ないのに受け継いだ方」
「何が?」
「あー。そういうことか……ウィンザール側の子か」
両膝に手をつく。それからがっくりと項垂れた。
代々ドレーゲル家を支えてきたのは〝星竜の目〟と呼ばれる藍色の瞳を持つ者だ。それは水竜の親愛を勝ち得た初代にあやかるためとも、その水竜が彼の子孫を見誤ることがないようにとも言われている。
長い歴史の中には「瞳の色に縛られ振り回されるのはおかしい」と、星竜の目を持たない者が継いだ記録も残っている。だがそれは折悪しく酷い干ばつに悩まされた時代でもあった。
以来、藍色の瞳は当主の必須条件となった。
先先代である祖父は美しいペールブロンドと藍の瞳の持ち主だった。が、後継の資格は息子ふたりには受け継がれなかった。そのため祖父の甥にあたるウィンザール家の人間がドレーゲルの跡を継いだ。
ちなみに隔世遺伝を期待されたユールに遺伝したのは髪色だけ。だからいずれ後継の座が回ってくるのも、マルガが贔屓したいのも、今ユールの目の前にいる――。
「ユールリッドくん、どうしたの?」
見上げた先でレンフォルツがおろおろしていた。
「……ウィンザールさあ、彼女いる?」
「え?」
藍色の瞳がきょとんと瞬く。ふるふると首を横に振ったのを見てユールは上体を起こした。まあそうだろうな。そんな浮ついた話があったら十人中十人が気づく。
だからきっとあの子の片想いだ。
「それじゃ見られたくないよなぁ、他の男といるとこなんか」
「ユールリッドくん?」
「くそ、なんか悔しくなってきた……結構可愛かったのに。目の色ってそんなに重要? オレだって初代の血は引いてるっての」
「あ、そうだ。あのねユールリッドくん。僕、きみにお願いしたいことが……」
話を遮るようにじとーっと睨めつける。レンフォルツがたじろいだところで馬鹿馬鹿しくなった。「じゃあな」と片手を上げ、ユールはさっさと歩き出す。
「待って!」
レンフォルツが追いかけてきた。
「ユールリッドくん、今夜何か用事ある?」
「今夜? 別に予定はないけど。……は、夜?」
「僕と一緒に探しにいってくれないかな。導きの花を」
足を止め怪訝な目を向けたユールにレンフォルツは朗らかな笑みを見せた。
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