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3.異変
フォロワーが少しずつ、減り始めたのだ。
意味がわからなかった。俺はなにかまずいことを言ったのだろうか?
過去の自分の発言を見直し、さまざまな角度から検証した。
……問題はみつけられなかった。にもかかわらず、フォロワーが歯抜けになっていく。
気になって気になって仕方なくなった俺はひとつの方法を思いついた。
別アカウントを作って、俺のなにが悪かったのか探る、という方法を。
──警察で言うところの潜入捜査みたいではあるんだけどさあ。さすがにもうそろそろ学習しなよ。なんでフォロー外したか、なんて教えてくれる人、全然いなかったじゃない。
あんこが羽づくろいをしながら呆れ声を出す。俺はぎろり、とあんこを睨む。
思えば、こいつは最初からこんな風にずけずけ言いたいことを言うやつだった。
──いんこなんてチンケな名前で呼ばれるの、ほとほとうんざりなの。どうせ呼ぶならあんこにして。
あんこが発した最初の日本語がこれだ。
「インコってこんなに流暢にしゃべるものなのか?」
そんなわけはあるまい、とぎょっとする俺に、あんこは馬鹿にしきった口調で言ってのけたものだ。
──世のインコが馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返してばっかりいるのは、口を開いてもろくなことにならないって知ってるからだと思うわよ。
あんこの真っ黒な目が俺をひた、と見据えた。
──だって人間って考えても傷つくだけのことを延々と考えてるじゃない。今のあんたみたいにさ。
ファーストコンタクト時とまったく変わらぬ不遜な口調で、今日もあんこは、ばかばかしい、と吐き捨てる。
「インコにはわかんないんだよ。俺の気持ちなんて」
──わからなくて結構。あんた、そんなことしなくたって充分優しいのに、もったいなくて見ちゃいらんないって思っただけ。
あんこは羽に空気を含むようにぷるぷるっと身を震わせてから、俺をじっと見た。
──まあ、でも、自分で納得するまで打ち込めるって意味じゃ、圭太よりはましかもね。あの子は威勢はよかったけれど本当はいつも不安で縮こまっている子だったから。もっとわかってやればよかったって思うわ。
圭太。
あんこの元の飼い主である友人の名前が出て俺は思わずあんこを見る。あんこはひとしきりぱたぱたと羽を震わせてから言った。
──まあ、やってごらんなさい。見ててあげるから。
それ以来、俺はあんこに見守られ、別のアカウントをかぶりながら「自分がなんで嫌われたのか」を探索している。
『ハンナさん、はじめまして。あんこ008です! コメント失礼します! お花、すっごく綺麗ですね! 癒されました♪』
あんこ008となった俺がコメントすると、ハンナからはすぐに返信があった。
『ありがとうございます。フリージアがいっぱい楽しめる季節になってきてすごく嬉しくて。思わずフリージア満載の写真にしちゃいました』
ハンナらしい淡々とした回答だ。当然ながら俺がテツだと勘づいている様子もない。安心しつつ、俺は優しさの仮面をかぶってハンナに画面越し文字で笑った。
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