待ち人遅し、念ずれば吉

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「ばあちゃんもオイラのこと気づいてたのか!?」 ほんの少し驚いたあと、スズは答える。 「うん、病気になったとき、化けた狐が助けてくれたんだって言ってたよ」 完璧にニンゲンに化けていたと思うんだけど、なんでバレたんだろうか。 変化(へんげ)には自信があったのだけど、練習し直した方が良さそうだ。 「だから、その狐さんにずっと会いたくて」 そして、スズがオイラの目を見て言った。 「あのときは、どうもありがとう。ずっとお礼を言いたかったんだ」 「――スズ!」 雨をも吹き飛ばしてしまいそうな笑顔に、思わず抱きついてしまった。 そして、雨はすっかり上がっていた。 大きくて派手な色の鳥居が空にかかる。 あの向こうには、なんの神さまがいるんだろう。 「あ、そうだ」と、スズがかばんからブドウを取り出した。 「一緒に食べよ」 ニヤリとした顔が、ちょっと狐っぽい。 「なあなあ、小説でもリントってブドウが好きなのか?」 「違うよ。ブドウが好きなのは君でしょう?」 びっくりしむせそうになる。 なんでスズにはお見通しなんだろうか。 「おばあちゃんから聞いたんだ」 「オイラ、スズのばあちゃんと話したことないよ?」 スズはふふっと笑う。 「お供え物は、ブドウがいちばん早くなくなるって」 やっぱりいつの時代も、狐よりニンゲンの方がずっと上手(うわて)だ。 「ねぇ、そろそろ君の名前を教えてよ」 「うん。オイラの名前は――」 ささくれ山の、稲荷神社の、化け狐。 その狐はもう、ひとりじゃなくなったんだとさ。
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