待ち人遅し、念ずれば吉

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ささくれ山は、オイラの生まれ育った山だ。 そこにオイラは今日もひとり。 昔はたくさんいた仲間も、気付けばみんないなくなっちまった。 つがいの夫婦は、ニンゲンを怖がった。 こんなところじゃ安心して子育てもできないと、こぞって去って行ったのが数年前。 そのあとも山は切り開かれ、住処はどんどん小さくなり、仲間は年寄りだけになっていた。 そしてつい先月、一匹の年寄りがニンゲンの畑に侵入を試みた。 危ないぞと忠告したが、そんなこと百も承知だと。生きるために仕方がないのだと言う。 誰もいない隙を狙って、エサになりそうな物に上手くありついた。 しかし、久しぶりのご飯に夢中になっていたのは一瞬だった。やっぱりいつの時代も、ニンゲンの方がずっと上手(うわて)だ。 その老人――たった一匹だった仲間――は毒入り団子を食べて死んじまった。 こうして、オイラはひとりになった。 でも、オイラはニンゲンが好きだ。 オイラたち動物のことなんて何も考えちゃいないニンゲンもいるが、そんな奴らばかりじゃない。良い奴だっているのだ。 ささくれ山の小さな小さな稲荷神社。 ここは、オイラのひいじいちゃんのひいじいちゃん、そのずーっと先のひいじいちゃんの時代からある神社だ。 むかし父ちゃんに教わった話によると、ニンゲンはオイラたち狐と共存していた時代があったんだと。ニンゲンが狐と仲良かっただなんてウソかと思うが、この稲荷神社があるのだから本当なのだろう。 ここはニンゲンと狐をつなぐ唯一の場所なのだ。 といっても悲しいことに、お参りに来るニンゲンはもうほとんどいなくなってしまった。 だけど、毎日欠かさずと言っていいほど来てくれるニンゲンが、ひとりだけいる。 ほら、今日も朝早くから、四十一の石段を軽快に駆け上がってくる音がする。
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