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その後も、ささくれ山では平和に時が流れていった。
そして、スズは凛々しく成長した。
相も変わらず、今日も誰かのために祈っている。
ちょっとくらいは自分のために願ってもいいだろうに。
オイラにできることがあれば、なんだって力になってやるよ。
あまり期待はせずに、スズのお祈りを見届ける。
――リントが生徒会で活躍できますように。
ふむふむ、生徒会というのは、調べによると学校の組織のことらしい。
投票で選ばれた生徒によって運営されるんだと。
ニンゲンの社会は複雑だからな。オイラに協力できることはなさそうだ。
――どうか、リントの努力が実りますように。
この前もリントってやつの願いだったよなぁ。
同じ人を何度も願うのは珍しい。
なにか大事なことがあるのだろうか?
――リントの計画がうまくいった! 神さまありがとう
いやオイラは知らんぞ?
――お願い、みんなリントを信じてあげて
――リントの疑いが晴れますように
……ここ最近は、もっぱらリントのことばかりだ。
最近できた友達だろうか?
見たことはないが、今の子どもたちは遠くにいてもインターネットでどこにいても繋がるから、そうなったらオイラには手に負えない。
スズの頭の中は今日もリントでいっぱいなのだろう。
ちょっとだけ胸がチクチクする。
――リントに笑顔がもどりますように
――リントが学校に戻って来れますように
――……お願い、リントを助けて……
ある時から、お参りに来るスズの表情が徐々にくもり始めた。
きっとリントの身に何か起きたんだ。
なんとかしてあげたいけど、リントが何者であるかもわからない以上、オイラにはどうすることもできない。
早く別のお願いにしてよ、スズ。
リントを想うスズに、目を背けたくなる。
なんだろう、このモヤモヤした気持ちは。オイラはスズがお祈りする姿が大好きなはずなのに。
――神さま、リントを生き返らせてください
ある日、スズはうつろげに弱々しい礼と拍手でそう願った。
四十一の石段を上がる音にも覇気がなく、スズがやって来るのにぎりぎりまで気付けなかったほどだ。
疲れているのか少し猫背で、合わせた手も今にも崩れそう。でも念じる力はいつも以上に強く、そのせいかリントの姿がぼんやりオイラの目に映った。
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