待ち人遅し、念ずれば吉

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逞しくて、責任感の強そうな男。人望があるのだろう、たくさんの仲間に囲まれている。 そこに、黒い影が突如として覆い被さる。 リントは仲間の盾になり、黒い影に立ち向かう。 仲間は助けられた恩を忘れ、リントから逃げるように離れていく。 それでもリントはひとりで戦い続ける。何度やられても、再び立ち上がって。 しかし劣勢はくつがえらなかった。リントは徐々に動けなくなり、その場で息絶えてしまった。 リントは、死んでしまったのだ。 スズの眉間に深いしわが寄る。 悲しい顔は見たくない。 ブサイクな顔でもいいから、笑っていてほしい。 オイラはいても立ってもいられなくなり、気付けばリントに化けていた。   「よ、よう」 狐像の陰から、オイラは顔を出した。 スズが笑ってくれることを想定していたが、その顔は驚きで硬直していた。 「……え、あ、……え?」 「願ってくれただろ? 生き返らせてほしいって」 「まさか……リント?」 オイラはこくりと頷きリントっぽく笑ってみせた。 「ほ、ほんとに……? こんなことって……」 スズはおそるおそる距離を詰め、リントの存在を確かめるみたいに頬に手を添える。 手の温かさが直に伝わる。嬉しくて、ついその手を覆うようにオイラの手でぎゅっと包み込んでしまった。 「スズ、いつも願ってくれてありがとう」 スズの口はもごもごと動くだけで、声になっていない。子どもみたいに照れた顔は、最高に可愛い。 ああ、この手を離したくないなぁ。 それに、誰かの温もりを肌で感じるのは、一体何年ぶりだろう。 「……リント、僕のために生き返ってくれたんだね」 「そうだよ。スズのため」 スズの表情はいつもの凛々しい笑顔に戻っていた。 「僕、夢でも見てるみたいだよ」 「オ、おれもだよ。夢みたい。またスズと会えるなんて」 スズはクスッと小さく笑った。 口元に添えられた手に妙に品があって、なぜかドキドキしてしまう。こんな笑い方は初めて見た。 そのせいか、何年もスズのことを見守ってきたのに、ぜんぜん知らないニンゲンのようにも感じてしまう。 でもリントにとっては、こういう表情も含めていつものスズなのだろう。そう思わせるほどに、自然で飾り気のないスズがこの目に映っている。
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