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夕方、四十一の階段が明るい音を立てる。
学校が終わってすぐに会いに来てくれたのだろうか。
スズを見るのはいつも朝だったから、夕方に見る姿はちょっと新鮮だ。
スズはキョロキョロと辺りを見回している。いつものくせでオイラは狐像の陰に隠れてしまった。
現れるタイミングをうかがっていると、スズがいつものように静かに祈りを捧げた。
――神さま、今朝はリントを生き返らせてくれてありがとう
「スズ、おかえり!」
「わぁ!!」
祈っているスズに後ろから勢いよく飛びつく。
「リント、良かった。また会えた」
「待ってるって言ったでしょ」
「そうだったね」と、今度はスズがオイラをぎゅっと抱き寄せた。
近付けるだけ近くで見つめ合う。
沈んでいく夕日に当てられたスズは、不思議な妖しさを秘めていて、化かされているのはオイラの方なんじゃないかと思ってしまう。
「ねぇリント」
呼ばれた名前に、少し遅れて反応した。
そうだ、オイラはリントだ。
スズの目に映っているのは、オイラではなくてリントなのだ。
「ブドウ、好きだったよね?」
スズはかばんをガサゴソと探る。
そして「はい」と差し出されたのは、美味しそうなひと房のブドウ。
どうやらリントの好物はオイラと同じみたいだ。
「スズは、俺がいなくても学校でうまくやってんのか?」
オイラは石段に座り、ブドウを一粒口に放った。
続いてスズも隣に腰を下ろす。
「う、うん。とりあえずは順調だよ」
少しぎこちなかったが、順調と言うならそうなのだろう。
あの日のような悲しい顔はもう見せないのだから。
「リントにはいつも助けてもらったから、そろそろ自分でどうにかできるようにならないとね」
「がんばってるんだな」
スズの芯の強さは、オイラがいちばんよく知っているんだから。
「リントは、生き返ってみてどう? やり残したことあるの?」
「うーん、スズに会うことしか考えてなかった。それ以外は、どうでもいいかな」
「ははっ、そんなことある?」
スズは口に入ったブドウを落とさないよう、口元をもごもごさせて大胆に笑う。
また可愛い一面を見つけてしまった。
「でも、嬉しいよ」
ブドウを飲み込んでから、少し意味ありげにスズが向き直った。
「僕も、リントに伝えたかったことがあるから」
なんだろう、と聞く前にスズは「また明日会えるよね?」と強引に話を終わらせてしまった。
「もちろん、明日も待ってる」
伸びた鳥居の影は、いつの間にかなくなっていた。
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