第2話

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第2話

 攻略対象の二人があれだと、残りの人も期待できないかもしれないわね。  となると私が目指すのは悪役令嬢ルート一択。  それもただの悪役令嬢ルートじゃない。レイチェル様とサラ様には、友情ではなく愛情を深めてもらいたい。  そう、その名も……真の悪役令嬢ルート!  そのためにはまず、この世界の人たちが同性愛に対して偏見を持たないように、考えを変えていかないといけないわね。  とりあえず身近なところから広げていった方がいいかしら…… 「お呼びですか? お嬢様」  私のお付き侍女のリーナ。試しに彼女から始めてみようかな……。 「ちょっとこれ読んでみて?」 「小説……ですか」  と私は書き上げた原稿をリーナに手渡す。  さっきまで書いていた百合小説の原稿が、やっと書きあがった。  これでも前世では趣味で同人活動もしていたのよ。  この世界には同人誌はまだないし、小説はあんまり書いたことなかったけど上手くかけたかしら。 「これは……」 「どうかしら……」 「お嬢様……ちょっと私には……」  リーナは引き気味に言った。  うーん……引かれてしまったか。まあ仕方ない。 「エマ。入るわよ~」 「オリビアお姉様!?」  突然扉が開かれて、オリビアお姉様が入ってきた。  オリビアお姉様はミュラー伯爵家の長女で、エマの姉。  乙女ゲームでは当然だが出てこなかった人物。 「あら、それは? 小説の原稿?」 「えっと……」  私は自分が今書いている小説の内容を説明する。 「ふぅん。なかなか面白そうな設定ね。ねえ、それ私にも読ませてくれない?」 「えっ!?  ダメです!」 「いいじゃん別に減るもんじゃなし。それに、こういうのって普通は姉妹とか家族に見せるものだと思うけど?」 「いや、でも……」 「ほら早く見せなさいよ。大丈夫だから。私そういうの全然気にしないから」 「はぁ……わかりました」  オリビアお姉様は結構押しが強いところがある。  こうなったお姉様を止めるのは、実は両親でも難しいらしい。  私は諦めてオリビアに原稿を渡す。  そして小説を読み始めるオリビアお姉様。 「へぇ……結構面白いじゃない。エマが書いたんだよね?」 「ほんとですか!? ルーナはあんまりみたいだったんですけど……」 「申し訳ありません。私にはよく……」 「ふ~ん……」  とお姉様はおもむろにルーナに近づいていく。  ルーナはじりじりと後ろに後退していくも、やがて部屋の壁際まで追いつめられる。 「オ、オリビア様……?」  お姉様はルーナを壁ドンして顔を近づけていく。 「ちょっ、お姉様!? なにしてるんですか!!」  私は慌てて止めに入る。するとお姉様はニヤリと笑った。 「何って、エマの小説の通りにしてるだけよ」 「いや、お姉様にはそんな趣味はないはずじゃ……?」 「そうだけど、なんかエマが書いてる小説見てたらやってみたくなってさ。ルーナも本当は興味あるんじゃないの?」 「いえ、私は……」 「正直になりなさい」  そう言うとお姉様は、ルーナにキスをした! 「むぐっ、んっ、ちゅっ、んんっ……。ぷはっ!! はあっ、はあ……」  ルーナは突然の出来事に呆然としている。 「どう? 気持ちよかったでしょ?」 「は、はい……」  真っ赤になって俯くルーナ。  お姉様……ルーナをあっさり落としちゃった。  っていうかルーナがチョロすぎ?  ルーナが素直すぎるのかしら。 「エマ。なかなか面白いものを書くのね」 「ありがとうございます。その、ルーナの反応をみて問題なさそうなら出版も考えてたんですけど」 「最初は受け入れられないかもね」 「うっ……やっぱり……」 「でも大丈夫。私がなんとかするわ!」 「えっ、本当ですか!? 助かります! さすがです、お姉様!」 「任せときなさい!!」  頼りになる。お姉様がいればきっと上手くいくはずだ。  流石はお姉様といったところか。それともこの世界がそういう風にできているのか。  百合やBLといった同性愛を題材にした小説が、庶民貴族を問わず国中に広く浸透していた。 「別に特別なことは何もしていないわ。ちょっとお茶会の時に、お友達に薦めただけ。いろいろと使って……ね♪」  お姉様の言う「いろいろ」は聞かない方がいいよね……。  最近社交界でお姉様を慕う令嬢の方が増えた気がするけど、偶然ね、うん……。  お姉様を敵に回すのだけは絶対に止めよう。心に堅く誓った私だった。  ちなみにルーナはいつの間にかお姉様の侍女になっていた。 「オリビア様~。あの、縄で私の体を縛って虐めてください!」 「もう、しょうがないわね……」  ……私は何も聞いてない……うん…………聞いてない。
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