第4話

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

第4話

 それからサラは、私たちと共にレイチェル様のお側に侍ることになった。  サラは最初は戸惑っていたものの、レイチェル様の人柄に触れてすぐに打ち解けていった。  サラはとてもいい子だ。  レイチェル様はそんなサラを可愛がっている。 「最近。クラスの子たちも話しかけてくれるようになって……」 「サラの周りにはいつも殿下たちがいたからね。そのせいかサラのことを『殿下たちを誑かしてる』なんて噂してる人もいたわ」 「レイチェルのおかげで、学校生活がすごく楽しい」 「これからもっと楽しくなるわよ」  二人きりになったときはお互いに名前呼びしてる。  それだけ二人の仲が近づいたってことね。  ……あっ!?レイチェル様ったらサラの手を自然と繋いでる。 「これが『尊い』なのですわね」 「わたくし。最近身分違いの百合本にハマってますの」 「まぁ。私もですわ」  私たちはというと、二人の目につかないところから、二人のやり取りを鑑賞しています。  こうして鑑賞できるように、全員『遠見』と『盗聴』の魔法を習得しています。  『遠見』の魔法で二人の様子を視界に移し、『盗聴』の魔法で会話を聞くといった具合に。  これらの魔法を発明したのは、私です。前世のアニメみたいになんかできないかなーって色々試してた時に偶然できた。  この魔法のおかげで、二人の邪魔にならないところから、二人の様子を鑑賞できます。  いくらでも悪用できるので、ここにいる人たちと一部の人にしか教えていません。 「そういえば私、エドモンド様との婚約解消が正式に決まりましたの」 「奇遇ですわね。わたくしもですわ」 「私もアラン様と解消されましたの。本当に偶然ですわね」  私は教える際に「信用できる人以外に教えない様に」とは言いました。  誰かに教えることを禁止はしていません。  本当、偶然ってあるのね。不思議だわー…… 「そういえばエマさん。例の魔法はどうなってますの?」 「お父様が言うには、近いうちに完成するそうです」 「本当ですの!」 「それは朗報ですわ……」 「完成したら私たちもぜひ教えてください!」 「それはもちろん」 百合を浸透させることはできたけど、この世界には魔法もあるんだし、同人誌で定番の、あれもできるんじゃないかと考えた。  お父様とお母様は優秀な魔法使いでありながら魔法省に勤務する研究員でもある。  私が頼んだら「面白そう」とノリノリで研究してくれてる。  そんな両親でも実現するのは難しかったようで、ここまで時間がかかりました。 それからも私たちは、陰ながらサラとレイチェル様のやり取りを見守り続けていた。  そうして学園生活を続けているうちに、一緒にいる時間に比例して、二人の距離も段々と近づいていったのでした。  迎えた学園卒業の日。この日は卒業を記念して王宮でパーティーが行われるのが恒例行事となっている。  ゲームでもあったクライマックスのイベント。  ヒロインは、一番好感度の高い攻略対象にエスコートされて会場入りする。  どのキャラとの間も好感度が足りない場合は、一人で入場する。  ゲームでは……ね。 「続きまして。レイチェル・フォンテーヌ侯爵令嬢とサラ・ミュラー侯爵令嬢の入場です」  司会の方のアナウンスと共に入場するレイチェル様と、レイチェル様にエスコートされるサラ。  ちなみ攻略対象の婚約者の方たちは、それぞれの親族の方にエスコートされて入場されました。  それにしてもレイチェル様は、流石の凛々しさ……!!  エスコートされるサラも満更じゃなさそうでよかったわ。 「どういうことだ! レイチェル!!」  と空気を読まない馬鹿の声が会場に響いた。  会場に入ってきたのは、パーティーへの参加資格のない殿下たち攻略対象一行。  その姿に、会場にいる誰もが呆れかえっている。  殿下の父である国王陛下もだ。 「なんで貴様がサラと一緒にいる! 彼女は俺と一緒に入場するはずだったのに」 「……私が婚約者と一緒に入場することの何がいけないんですの?」 「はぁ? 婚約者……? 貴様の婚約者はこの俺だろ……?」 「殿下との婚約は既に破棄されております」 「そんなの俺は聞いてないぞ!」 「そんなの私に聞かれても知りませんわ」  そう。レオン殿下とレイチェル様の婚約はとっくに破棄されている。  取り巻きの婚約者の皆さまと同じタイミングでね。  まあ、それはいいとして……。 「そもそもどうしてあなたがここにいらっしゃいますの?」 「そんなの。今日のパーティーにサラをエスコートしようとしたからに決まっているだろう」 「パーティー? あなたが?」 「今日は俺の卒業を祝うためのパーティーだろう? 主役の俺が出ないでどうする?」 「何を言っておりますの? 殿下は卒業できないですよね?」 「はっ!? なにを言っているんだお前は」 「殿下はすでに留年が決定しています。卒業できるわけがないでしょう」 「留年? 俺は王子だ。そんなのどうとでもなる」  そんなわけないでしょう。  と会場にいる人は皆思っていることでしょう。 「サラ。君は嫌々レイチェルに従っているんだね? かわいそうに……俺が来たからもう安心だ」  とレオン殿下はサラに近づこうとしているが、サラはレイチェル様の背中に隠れてしまう。  それに、レオン殿下に対し怯えているようにも見える。  そしてサラを庇うようにレオン殿下に立ちふさがるレイチェル様。  その堂々たるお姿や、異性同性構わず皆虜にしてしまいそうですわ! 「私の婚約者に近づかないでくれます?」 「レイチェル様……」 「婚約者? さっきから君は何を……」 「ですから。サラが私の婚約者だと言っているんです」 「は?……」  何を言っているのか理解できずにアホ面をさらしている殿下。  婚約者って言われてるのにまだ慣れないみたいでサラが恥ずかしそうにしている。初々しくていいわー…… 「はっ……女同士で婚約? 気でも狂ったのか」 「……本当に殿下は何も知らないんですのね」  殿下の発言にはレイチェル様も呆れておられます。  それに会場の皆さまもです。  こんな方が時期国王というのは、不安しかないですね…… 「おい、貴様ら! 俺に向かってなんて態度だ!」 「――レオン」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!