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「佐藤さん、貴方の本当の名前は何ですか?」
「…」
「貴方が佐藤隆一でない事は既に分かっているのですよ。本物の佐藤隆一は我々公安が保護しています。貴方を逮捕する事にも協力してもらった」
「えっ?」
「佐藤さんはね、自分の戸籍を売る時に、もしお前がどこかで本名を名乗ったら殺すと脅されて気が付いたんですよ。自分が生きている事はその商売の邪魔になるってね。自分の名前が実際に使われる時、自分は必ず殺されると思った。だから、警察に保護を求めてきたんです。事情を知った警察は公安部が動いて佐藤さんを保護し、佐藤さんの名前が使われるのをずっと待っていたんです。すると、十カ月ほど前、佐藤さんの住民票を請求した者がおり、捜査でそれが貴方だと分かった。それ以来我々公安は、ずっとあなたをマークしていたんです」
「そんな…」
「始めは政治的な犯罪を想像していたんですが、貴方はどうやら産業スパイだと分り、電気の会社に入社したものですから佐藤さんに協力していただいて仕事中張り付いてもらったんです。そしてついにあなたが動くのを察知して逮捕に至った。これも佐藤さんの情報ですよ」
「えっ?」
「山口さんって、貴方の同僚ですよね? あの人が本物の佐藤隆一さんです。佐藤さんはソフトの専門家なんですよ。我々素人が専門職に混じるとどうしてもどこか違う空気が流れてバレてしまうのでね」
「山口…」
「貴方の目の前にいたのが山口という人間に化けた佐藤さんで、その目の前で貴方は佐藤隆一に化けた…つもりだったのでしょう。佐藤さんの、化け勝ちというわけですな。はっはっはっ」
李は言葉を失った。
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