背乗り

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一課の部屋に着くと、李は部屋の前で待機した。 外から見たときにまだ電気は点いていたから、まだ残業の社員は中にいる筈だ。 数分待つと、ドアのロックが外れる音がした。 ドアが開く。 ドアノブを開ける手が見えた瞬間李は部屋の中にスプレーを噴射した。 ドアノブから手が離れ、中で二、三歩よろめく足音がしドタリと人が倒れる音がした。 李は慎重にドアを開けると一人の男が床に倒れていた。 李はその男を近くの椅子に座らせ机に突っ伏させた。 男はただ眠っているだけだった。 この男はスプレーを見ていない。 目が覚めた時、帰ろうと思ったら不意に眠気に襲われそのまま眠ってしまったと思うだろう。 その細工を終えると李は素早く部屋の隅にあるコンピューターに近づき、電源を入れた。 パスワードがあるのかどうかは、分からなかったがスタンドアロンであり、課員全員が使うのだから全員が知っているパスワードなど設定しても意味がないと判断するかも知れず、それに賭けていた。 そしてパスワードは設定されていなかった。 「随分と甘いセキュリティだ」 李は呟くと、そこにあるファイルをすべてUSBメモリにコピーしていった。 これで、私の仕事は達成された。 この後、私にどんな命令が来るのかは分からないが、この実績は大きい。 全てのコピーが終ると、李はメモリを外し、コンピューターの電源を落とした。 何の痕跡も残さない事が肝要だった。 眠っている男もそろそろ目覚める頃だ。 李は、そっとドアを開け、部屋を出た。 するとドアの前には男性が六名立っていた。
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