背乗り

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李はその日から半年ほどは普通に会社の仕事をした。 本国の会社で最先端の技術開発をしていた李にとっては何という事もないソフトの開発で、扱ったソフトも、特に本国へ報告するようなレベルのものではない。 ここは、この会社の実力を示す部署ではなかった。 半年が過ぎ、李は佐藤としてすっかりその部署に溶け込んでいた。 そろそろ「仕事」を始めなければならないと、李は思ってはいたが、一課へ移動する希望を申し出るのはまだ早い。 今のまま、なんとか一課の開発状況を知る手立ては無いだろうか。 李は考えていた。 一課の人間の顔は全て覚えた。 いつも遅くまで残業している彼らが概ね何時から帰社し始めるかも掴んでいる。 誰か一課の人間に接触したいところだが、会社の機密情報そのものである彼らは社内でもアンタッチャブルな存在で、不自然に接触を図ると直ぐに怪しまれ社内にあるという調査部が動くという話だ。 入社して間もない私はリスクが高い。 さてどうしたものか。 そんな折、本国から連絡が来た。 「早急に情報を上げよ」 李は決心した。 これは多少のリスクがあっても動かなければならない。
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