背乗り

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その週の金曜、二十二時。 李は会社が見える喫茶店にいた。 会社の正面玄関は随分前に施錠されエントランスは真っ暗になっている。 正面玄関脇にある通用門があき、守衛と共に二名の人間が出てきた。 残業していた一課の人間である。 七階の窓にはまだ明かりが点いているところを見ると、まだ残って残業を続けている人間もいるようだ。 李は喫茶店をでて二人の後を付けた。 二人は繁華街へ向かい、一件の居酒屋へ入って行った。 「よし」 李はこの二人がよく金曜日にこの居酒屋へ寄ってから帰るという事を知っていた。 駅ではなく繁華街へ向かった時点でその賭けに勝ったと分かった。 三分ほど待ち、自分もその居酒屋へ入ろうとすると 「佐藤さん? 佐藤さんじゃないですか」 声のした方を見ると、そこには山口が赤い顔をして立っている。 なんだこんな時に。 李は一瞬焦った。 しかし、今を逃す事は出来ない。 「あぁ、山口さん。どうです、ちょっとやりませんか? 私、まだちょっと飲み足りなくて」 「おっ、良いですねー。いきましょいきましょ」 「んじゃ、ここでどうです?」 「良いですよ、どこでも」 李は山口を伴って先ほど一課の人間が入って行った居酒屋へと入った。
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