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「ただ、その飢えた牙がまた人間に向かわないかが心配だ」
恰幅のいい方が腕を組んだ。
「万が一お客様に被害が及べば、その店舗どころか系列店がこぞって潰れてしまいますからね」
華奢な方も眉間に皺を刻んで訝る。
「たしかに後遺症は残っていますが、再発リスクはないに等しいです」
難色を示す2人に慌てて訂正を入れる。
「ゾンビになったとき、人肉は食べたの?」と恰幅の良い方。
「精肉コーナーの生肉がきっかけでゾンビに戻ったりしないですかね?」と華奢な方。
聞きながら、太ももに添えた手を握りしめていた。
無神経すぎる。立場や武力、距離感が悪い方向で彼らに安心感をもたらしている。Zウイルスとは関係なしに理性を失いそうだ。
堪えるしかない。もし暴れたら、就職のチャンスどころか命を失いかねない。
18年間連れ添った妻を思い浮かべる。
僕がゾンビになる前も、なった後も、献身的に支えてくれた。
今朝も家を出る際、顔を合わせて激励してくれた。
「大丈夫。普通の人のふりができるくらいに、ちゃんと仕上がってる」
妻はすっぴん顔で笑った。
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