夢喰採り

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夢喰採り

「夢や(うた)へ  つつ闇の水曲(みわた)へ落つるとも」  照明が当たらない末席で竪琴(リラ)の弦を(はじ)くオトの位置からは、絢爛(けんらん)な舞台の様子が一望できる。  (さび)れた夜の漁師小屋とは思えない、壮観な景色だった。  (たお)やかな横笛と弦の繊細な音、それらを優美にまとめる(つづみ)拍子(リズム)。  重なり合う音楽に合わせて、華美な羽耳を持つ麗しい雛鳥(ひなどり)たちが着物を(ひるが)して踊る。まるで四季に咲き誇る旬の花々が一堂に会したような(あで)やかさだ。  その中心で圧巻の奉唱(ほうしょう)を響かせる、一人の歌姫。豪奢な唐紅(からくれない)の着物に負けない美姫は、舞台装置の丸い吊り提灯(ちょうちん)の下、髪色と同じ淡い桃色の羽耳を堂々と広げて高らかに歌い上げる。  彼女が歌を捧げていたのは、寝台に群がる黒い蝶。暗闇が「こいこい」と手招くように、大ぶりな(はね)がわさわさと(うごめ)いた。
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