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「本っ当に憎らしい片羽だわ! あたくしの舞台で耳障りな音を立てないでちょうだい!」
「申し訳ありま、」
「誰が喋っていいって言ったのよ、この愚図!」
歌姫ことメルヴィは、薄桃色のたっぷりとした髪を逆立て、畳んだ扇子でオトの横面を思いきり殴打した。
衝撃で硬い板間に倒れ込んだ無様な姿を見て、数人の熱心な取り巻きが嘲笑する。
彼女たちが見下ろすオトと言えば、飾り気のない藍色の着物は慎ましやかで、言葉を選ばなければ地味で古臭い。茶色がかった黒髪は少し癖があって、栄養不足で艶もなく、玉蜀黍のひげのようだとよく笑われる。着飾られることに幸せを見出す他の雛鳥たちとは比べ物にならないほどの芋娘だ。黒い蝶の方がまだ華やかに見えるだろう。
「醜い片羽はそうやって地べたに這いつくばってるのがお似合いよ」
「歌えない雛鳥なんて、メルヴィ様の楽徒に必要ないわ」
「告鳥様もどうしてさっさと追い出さないのかしら、こんな出来損ない……」
セレニティの眷属である三羽の告鳥が率いるカージュは、楽徒と呼ばれる三つの歌劇団を持つ。島に蔓延るの悪夢を祓うため、本島で日夜夢喰採りの歌を奏でる。
夢喰採りは集団芸能。一人の失態は楽徒の失態。演奏中に雑音を立てたオトにも非がある。だからどんな罵詈雑言を浴びせられようとも仕方がない。そう自分に言い聞かせて、降り注ぐ硝子片のような言葉に切り刻まれながら、ただひたすらに耐えて、耐えて、耐えた。
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