灯台が照らす先

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「私、何か気に障るようなことをしてしまったのでしょうか?」 「オトのせいじゃない。彼らは夢喰(むし)の被害で仲間を失ったばかりで、気が立っているだけだ」 「でも、献上がいたんじゃ……」 「海上巡視中に集られて、港に戻って来た時には既に手遅れだったそうだ。雛鳥一人では荷が重かったんだろう」  一匹や二匹ならまだしも、身体を覆い尽くすような数になってしまったら楽徒(がくと)が必要だ。そもそも一人に全てを任せるような献上の仕組み自体に無理がある。  補足するため、二人の背後を歩いていたハンナが重い口を開いた。 「前任からの引継ぎによれば、三日三晩歌い通し、それでも夢喰(むし)を祓いきれず……力を使い果たしてお亡くなりになったそうです。カージュへご遺体をお返ししようとしましたが、死骸は不要だと拒否されたようで……」 「そんな……」 「今は海が見渡せる丘に丁重に埋葬されております。オト様も、後日献花に参りましょう」  小さくうなずいて気落ちするオトの背中を大きな手のひらがさする。 「彼女は前任の領事を懇意にし、大陸人のためによく尽力してくれた。俺たちは雛鳥に感謝こそすれ、君が聞いていたような非道な凌辱はありえない」 「ご、ごめんなさい、私……!」  知らなかったとは言え、大陸人を自然と偏見の目で見ていた。そのことに気づいて自責の念に苛まれる。 「いいんだ。これからオトが自分の目で見て、少しずつ知っていけばいい」 「自分の、目で……」  厳重な門を抜け、長い坂を上った先。真白の灯台の下で、総司令官のアルベルトが待ち構えていた。
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