東の果ての、その向こう

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「まぁ、何も外の世界は恐ろしいものばかりじゃない。君が想像もつかないほど美しい景色や不思議な事象はたくさんある。例えば……」  ちらりとアルベルトに目配せする。幼馴染の悪巧みに気づいて「ここではよせ」と制止したのだが。  ――パチン。  ノアが小気味良く指を鳴らすと、アルベルトが眩い光に包まれた。  そう時間も立たず収縮した光の中心には、もぬけの殻となった軍服だけがくしゃっと残る。消えてしまったのかと慌てるオトを横目に、ノアは楽しそうに笑った。 「大丈夫だ、ほら」  指を差した深緑色の軍服の中から、もぞもぞとネズミが這い出してきた。怒っているのか、前歯を剥き出しにしてチチチチッ、と激しく鳴く。 「アルベルト様……?」 「カージュで君を見つけたのもこいつだ。ネズミに変えて先に連絡船へ潜り込ませていたんだ。おかげで助かったよ」  人間がネズミに変わった。何が起きたのか分からず混乱するオトに、ノアは得意気に微笑む。 「神獣はセレニティだけじゃない。少なくとも世界で百二十種は確認されている」 「では、ノア様も神獣の加護を賜ったのですか?」 「ああ。俺は全ての生物の祖と言われている神獣ニアの力で、生物を別の生物に変容させることができる。……もっとも、俺は加護ではなく呪いと呼んでいるがな」  涼しい顔で物騒なことを口にしたノアがアルベルトを元に戻そうと指を向けるも、ハンナがネズミと軍服を拾い上げた。 「屋外で全裸にさせるのは、いささか不憫では?」 「それもそうか。オトにも悪影響だしな」 「チチチッ! チャーーーッ!!」  ハンナの手のひらの上でつぶらな瞳をキッと吊り上げて怒るアルベルト。今にも噛みつきそうな形相だが、どうにも可愛らしさが拭えなかった。
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