悪夢の襲来

3/6
前へ
/148ページ
次へ
『グレイ、キースを離すんだ。規定に則り海へ送り出す』 『ッ……!』  アルベルトにグレイと呼ばれた門番は、大柄な身体をビクつかせて首を横に振る。夢喰(むし)が覆い尽くした身体を抱き、日に焼けた頬を涙で濡らした。 『お前の兄が亡くなった時に皆で決めただろう。初期症状を過ぎてしまうと献上一人では助けられない。これ以上被害を広げないために、海へ還すんだ』 『でもっ……キースは俺の弟だ……! 兄に続いて弟まで失うなんて、納得できません! それに、こいつはまだ生きてるんですよ!?』 『キースの命を吸い終わればまた別の者を襲う。そうなる前になるべく遠くへ送り出すしかない。艦長、小船の準備を』 『そんなっ……嫌です! ……っ、嫌だ!!』  助からない者のために献上まで失うわけにはいかない。助かるはずの命まで助からなくなってしまう。前回の悲劇でそれを学んだ彼らは、手遅れになった仲間を小船に一人乗せて海へ放つと決めていた。  取り乱すグレイの目の前で、艦隊から小船が降ろされる。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加