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『グレイ、キースを離すんだ。規定に則り海へ送り出す』
『ッ……!』
アルベルトにグレイと呼ばれた門番は、大柄な身体をビクつかせて首を横に振る。夢喰が覆い尽くした身体を抱き、日に焼けた頬を涙で濡らした。
『お前の兄が亡くなった時に皆で決めただろう。初期症状を過ぎてしまうと献上一人では助けられない。これ以上被害を広げないために、海へ還すんだ』
『でもっ……キースは俺の弟だ……! 兄に続いて弟まで失うなんて、納得できません! それに、こいつはまだ生きてるんですよ!?』
『キースの命を吸い終わればまた別の者を襲う。そうなる前になるべく遠くへ送り出すしかない。艦長、小船の準備を』
『そんなっ……嫌です! ……っ、嫌だ!!』
助からない者のために献上まで失うわけにはいかない。助かるはずの命まで助からなくなってしまう。前回の悲劇でそれを学んだ彼らは、手遅れになった仲間を小船に一人乗せて海へ放つと決めていた。
取り乱すグレイの目の前で、艦隊から小船が降ろされる。
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