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「オトはどうしたい?」
小刻みに震える手を握ったノアが問う。やけに明瞭な声は、オトの視線を釘付けにする。
「わ、私、やっぱりできな――」
「できるかできないかではなく、本当はどうしたい? 自分にできることしかしてはいけないなんてことはないはずだ」
指の間を固く握り込み、優しくも力強い視線でオトを見つめる。彼に導かれるように、命を吸い取られる家族を抱いて泣き喚くグレイを見た。
彼らが何のために島へ来て、何と戦っているのか。大陸人がクレセンティアの開国を支援するためにどれほど尽力してくれているか。何も知らなったオトへ、ノアが一つずつ教えてくれた。彼らを救うことが島を守ることにも繋がると。
弟と引き離そうとする仲間へ激しく抵抗する彼を嘲笑うように、黒い翅がはためく。太ましい顎を止めどなく伝う涙に、何も感じないわけがない。
「――助けたい、です」
胸の裡に湧いた感情を吐露する。ノアを助けた時だってそうだった。名も知らぬ誰かのために震える心を叱咤して、どれだけ無様だろうと歌った。命のためなら、オトは歌える。
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