悪夢の襲来

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「そう言ってくれると、信じていた」  微笑んだノアは、グレイを取り囲む集団へ足を向ける。 「いい加減にしろ、グレイ! お前だけが辛いなどと思うな!!」  悲痛に顔を歪めたアルベルトが振り上げた拳をノアが掴む。驚いて振り返った幼馴染へ、珍しく真剣な眼差しで告げた。 「彼を海へ送るのは延期だ。総領事館へ移送する準備をしろ。俺の小鳥が歌うそうだ」 「歌うって、この量を一人でなんて……!」  前任の献上が命と引き換えに歌っても、祓いきることはできなかったのに。アルベルトが凛々しい眉をひそめる。 「大陸人の命を守るのが領事の務め。彼女はそのことをよく理解してくれている。つまり、これは俺たちの仕事だ」  一心不乱に抵抗して泣いてばかりだったグレイが顔を上げる。いけ好かない領事の隣に片羽の少女が寄り添った。今にも倒れそうなほど血の気の引いた顔で、それでも目の前の命をしっかりと見据えて。 「私が献上だからではなく、あなたが大陸人だからでもなく……たった一つの尊い命のために、どうか歌わせてください」
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