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「――泡沫人は昼想ひ、夜夢む」
何度も口ずさんだ歌い出し。高音域は掠れ、咳が喉をせり上がる。それをどうにか抑え込んで歌うが、苦しくて堪らない。声を張ることもできない雛鳥の様子に、聴衆がひそひそと騒めいた。
(知ってる。どれだけ醜くて、無様な歌声か)
カージュで散々指を差されてきた。雑音は必要ないと嘲笑され、かと言って歌わなければ鉄扇が飛んでくる。だがもう、あの鳥籠で惨めに泣いているだけの自分ではない。
恐怖に立ち向かい震える手を胸に当て、息を吸い込もうと口を開いたその時。
オトの羽耳に澄んだ音色が届いた。
「……!」
驚きで見開いた視線の先に、奥行きの短い洋琴を弾くノアの姿がった。
白と黒の鍵盤から内部の弦を叩き音を奏でる打弦楽器は、島ではまだ馴染みがない。初めて耳にした音が奏でるのは、もちろん二人を巡り逢わせた想ひ歌。
魂に刻み込まれた伴奏がオトを包み込む。まるで「独りじゃない」と言われているようで、胸が熱くなった。美しい所作の指先が鍵盤を叩いて奏でる音に身を委ね、大きく息を吸い込む。
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