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「――……息がある、生きてるぞ!」
露わになったキースの口元へ手の甲を近づけたアルベルトが叫ぶ。室内は一気に歓声と拍手に包まれた。グレイは穏やかに眠る弟を胸に抱いて泣き笑い、職員や軍人たちは所属も忘れて肩を組み笑い合う。
そんな晴れやかな光景を目の当たりにして、ようやくオトにも実感が芽生えた。
「助け、られた……」
歌えたことよりも、その事実に胸を撫で下ろす。すると背後から麝香の香りに抱き締められた。誰かはもう振り返るまでもない。
「よくやったな、オト」
「ノア様、私……」
ちゃんと歌えた、あなたのおかげで。
そう伝えたかったのに、カラカラになった喉から飛び出したのは大きな咳だった。
「ゴホッ! ゲホッ、ひゅっ……!」
「オト!?」
足首が溶けたように力が入らなくなり、床へ倒れ込みそうになったところをノアに抱きかかえられる。安堵を覚えたはずの腕の中でさえ激しい咳は止まらない。地上で溺れそうになり、涙が零れた。
「ッ……! か、はッ……!?」
口を押さえていた手の平へ生温かい何かがぴしゃっと飛ぶ。途端に口の中へ広がる不快な味。恐る恐る見やった手に滲むのは、赤黒い血――。
「っ、ぁ……!」
瞠目して、指先が震える。古傷が開いた鳴官から出血したのだ。異変に気づいたノアが息を呑み、ざわつく周囲へ何かを叫ぶ。オトの名を泣き叫ぶサヨの声も遠くに聞こえた。身体が重い。すごく、寒い――。
身体の末端から五感が徐々に薄れ、やがてオトの意識は途絶えた。
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