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奏者と楽器
『■■、起きてよ。ねぇ……』
しくしくと濡れた声が聞こえる。あまりの物悲しさにオトがまぶたを開けると、平衡感覚を失うほどの暗闇に出迎えらた。
「誰……?」
手前に伸ばした自分の指先すら見えない。その間もスンと啜り泣くか細い声が羽耳を撫でる。
『待ってる、ずっと。■■が起きるのを、ここで』
少年とも少女ともつかない声色があちこちに反射して響き渡る。こんな暗い場所で一人待つのはきっと寂しいだろう。そう思ったら自然と涙が溢れた。まるで声の主の感情に引き寄せられるように胸が騒めく。終わりの見えない悲壮な濁流に呑み込まれてしまって、涙が止まらない。
「あなたは誰なの? どこにいるの?」
濡れた目尻を手で拭いながら、声の主を探してさまよう。こんなところに一人にはさせられない。
手を伸ばして空間を把握しながら歩いていると、指先に柔らかな感触が触れる。自分自身にも覚えのあるこのふわりとした手触りは――……羽?
『目が覚めたら要石を探してね。そうしたらきっとまた会えるから。■■、約束だよ』
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