片羽のオト

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「やめて! オト姉様をいじめないで!」  それは夢喰採(むしと)りの籠を抱える役目を持った幼鳥の一人、サヨだった。  利発な少女は結んだ前髪をぴょんと揺らして立ち塞がると、年の離れた姉鳥たちを果敢に睨み上げる。  取り巻きたちは子どもに見られて罰が悪くなったのか、扇子で口元を隠し一歩退(しりぞ)く。だがメルヴィだけは違った。 「幼鳥のくせに、いつあたくしが舞台に上がって良いと言ったの? 勝手をする(やから)は誰であろうと害鳥よ」  オトの時と同じように、畳んだ扇子が振り上げられる。子どもだろうが容赦なく駆除しようと言うのだ、この冷酷な歌姫は。 「――だめ!」  扇子が振り切られる瞬間。オトがとっさにサヨを抱き込み、背中をぶたれた。着物の上からでも素肌に鞭打ちされたような痛みが突き抜け、サヨを抱えたまま力なく倒れ込む。 「オト姉様……!」 「サヨ、じっとして、喋っちゃだめ……!」  一度では済まない。今までの経験から痛いほど理解している。  せめてサヨが傷を負わないように、オトはひりつく背中を差し出すことしかできなかった。 「弱いくせにそうやって正義ぶるところが、本当に気に食わないのよ」  氷点下の声色と無情な手の平を鉄扇で叩く冷たい音に、四肢が震える。  次に襲って来るであろう痛みを想像して目をつむった、その時――。
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