奏者と楽器

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「セレニティ様……?」  どうしてそう思ったのかはわからない。ただ、自然と頭に思い浮かんだ。  目覚めたオトの視界には、見覚えのある白亜の天井が広がった。中心でシャンデリアが煌き、窓の外では雀が鳴く。目尻からは夢の続きかのように一筋の涙が伝った。 「――オト」  瞬きを繰り返して焦点を合わせるオトの頭を、優しい手が撫でる。ぼやけた視界に導き星の白金と、憧れの群青色が滲んだ。  その声を聞くと、ツツジの香りを思い出す。「どうせどこにも行けない」と最初から飛ぼうとすらしなかったオトに、外の世界へと繋がる指輪を授けてくれた。 「ノア、様……」  名を呼ぶだけで胸が締めつけられる。オトの待ち人。来るはずがないと歌いながら待ち続けた、たった一人の人。飲み込まれそうなほど暗く悲しい夢が自分自身と重なる。だが、彼は来てくれた。ノアの言葉を借りるなら、きっと運命と言うのだろう。やっと、素直にそう思うことができた。
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