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目覚めてから三日後――。
オトの姿は、カージュへ渡る東の桟橋にあった。
朝靄が立ち込める海辺を前に並んで座るのは、白髪を後ろで一つに結った小柄な老婆。少し離れた場所には見張り役のハンナの姿もある。そして、老婆の付き添いで来たアタラも。
「お前さんたち、少し話してきたらどうだい?」
リラの弦を張り直す老婆が、再会するもぎこちない様子の雛鳥二人へ言う。
彼女はカージュの浜辺にある集落の住人で、楽器工房の店主、ユミ。信者の集落には職人が多く暮らす。楽器の調達・調律から夢喰採りの舞台装置、雛鳥の衣装作りまで、その献身は多岐に渡る。中でも卓越した調律技術を持つユミは、楽徒の演奏の要と言っても過言ではない。
「領事からの修理依頼で本島へ渡ると言ったらついて行くって散々駄々をこねたくせに、意気地がないよアタラ」
「駄々はこねてない。船頭が必要だから立候補しただけだ」
「はいはい。オトも、少し会わなかったくらいで人見知りしてないで、ちゃんと話しな。言いたいこと、あるんだろう?」
「……はい」
ユミに促され、二人は浜辺を歩き出した。警戒するハンナにオトは「大丈夫」と目配せして、朝焼けを反射する波打ち際に足跡を刻む。
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