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「奏者と楽器は不離一体。片方が求める限り歌い奏で続けるもんさ。だからこの子じゃないとだめなんだ」
「……わたくしには、あの猿がそこまで深く考えていたとは思えませんが」
「ヒッヒッヒッ! まぁ仮にそうだとしてもあたしは気に入ったよ、あの男。それに……」
横並びになって歩く雛鳥の後ろ姿を見つめる。二人でいる時のオトはいつも自信なさ気で、アタラの半歩後ろを遠慮気味に歩いていた。だが今、波が打ち消す足跡は同じ間隔で続いている。
「あの子が変われたのは、領事のおかげだろうからねぇ」
カージュの集落で生まれて七十年。ずっと雛鳥たちを見守り続けてきた。
告鳥三羽衆の指導のもと、幼い頃から厳しい稽古にひたすら明け暮れる少年少女たちの人格は、ひどく未熟だ。狭い世界では善悪の価値観は薄れ、それを指摘してくれる人もいない。歌い奏でる術しか知らずに悠久の空へ飛び立つ雛鳥のなんと多いことか。
自分の老い先が見えた今だからこそ、人の腹から生まれて人ならざる者として扱われる子どもたちに寄り添いたいと思う。例えそれが神鳥の意向に背くことだとしても。
「どうか大切にしてやっておくれ。少し可愛がり過ぎるくらいが丁度いい」
「それならうちの猿の得意分野ですわ。それにオト様は大陸人の宝ですもの。幸せにします、必ず」
頼もしく言いきる秘書官に、島一番の調律師は頬を緩めて再び手を動かす。奏者によく似たリラは、壊された音を少しずつ取り戻していった。
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