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門戸渡りの約束
「――それからグレイさんと弟さんが会いに来てくれてね、一緒に前の献上のお墓にお花をお供えしたの。二人のお兄さんのお墓にも今度連れて行ってくれるって」
流麗な目を細めたアタラは、眩しい横顔を眺めながら小さく頷く。彼女の微笑みを見たのはいつぶりだろうか。
「それでね、神獣の傷を癒す薬にノア様が心当たりがあるんだって。それを飲めば私の鳴官も治って、ちゃんと歌えるようになるかもしれないわ」
うつむいてばかりだったあの頃と違い、しゃんと伸びた背筋で前を向く金の瞳。アタラが与えられなかったものを、あの男が溢れるほど注いでいるのがわかる。
「あいつも一緒に来るのかと思った」
アタラの言う「あいつ」がノアを指すことに気づき、オトは困ったように笑う。
「私の看病につきっきりで、お仕事を溜めてしまったらしくて。今は執務室でサヨが見張ってるわ」
「俺も行く!」とアタラに負けず劣らずの駄々をこねた領事は、秘書官に執務室へ引きずられて行った。思い出したら笑みが込み上げてしまう。
口元を手で隠して幸せそうに瞳を細める様子を、朱鷺色の瞳が切なく見つめた。
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