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「……オト、ごめん」
「え、何が?」
「今までのこと、全部。僕の弱さがオトを苦しめた」
結局、アタラはオトの手を引いて蒸気船に飛び乗ることはできなかった。中途半端に優しくて惨い自分の元を離れていったのは当然のこと。オトを本当の意味で鳥籠に閉じ込めていたのは、告鳥の圧力や雛鳥の責務ではなく、自分だ。
だがオトは歩みを止め、白い袖を引く。
「苦しめたって、どうして? いつも助けてくれたじゃない。それに私、アタラとサヨがいたからあそこで生きてこれたの」
「でもカージュの外に連れ出すことはできなかった」
「それは……」
仕方のないこと。そう言おうとしたオトを、アタラが正面から抱き締めた。
突然の抱擁で置き場に困った手が宙をさまよう。朝日に照らされた真白の髪が頬をくすぐった。これは、どういう状況なのだろう。
「アタラ……?」
「……オトは、カージュにはもう戻らないんだろう?」
震える声で問われ、戸惑いながらも小さく頷いた。すると抱き締める力がいっそう強くなる。いつも優しく気遣ってくれるアタラがまるで迷子の子どものように思えた。恐る恐る背中に回した手でトントン、とあやすように叩く。
ノアが一つずつ教えて、促して、助けてくれたおかげで、ようやく決心がついたのだ。ここで歌う。歌いたいのだと。だからもう、カージュには戻らない。
「ならあの約束も、もうだめか……?」
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